シリーズ環境問題を考える 143  PDF

北陸新幹線・大阪延伸に伴う
京都北山の自然環境悪化を憂う

 どうやら北陸新幹線の大阪延伸は小浜コースに決まりつつあるようです。
 まだ詳細な経路は未定ですが、小浜より大阪へ至るルートを考えると京都北山に長大トンネルが穿たれるのは確実です。また、地上権のおよび難い大深度を掘削し、京都盆地を縦断するなどという無謀としか思えない計画もあるようです。それならまだ、亀岡盆地に〝西京都駅〟を作り、そこまでの交通手段の充実により郡部の発展に寄与させ、北摂経由で大阪に至ったほうがまだマシな気がします。まあトンネルばかりで途中の景色の楽しめない鉄道旅に、私はあまり価値は見出せませんが…。
 また小浜ルートが完成すると、現在の法律では湖西線は並行在来線となるため、現状運行は困難で列車本数は減らされてしまう可能性があるでしょう。滋賀県民には何らメリットはなく、デメリットのみを背負わされてしまうことになるのでは?
 古今を問わず、このような大型公共工事には、環境問題はもれなく付随してきます。実際に、はるかに規模の小さい京都市地下鉄工事などでも、地下水の混濁や流量減少など幾多の悪影響が報告されていますし、リニア新幹線南アルプストンネル掘削では大井川の水流への影響が取りざたされ、長崎新幹線工事では、ある村の生活用水の谷水が完全枯渇したとも聞きます。北陸新幹線延伸工事に伴う作業道の建設、多量の物資の運搬、膨大な掘削残土の処理、深部帯水層を含む地下水への悪影響など問題は計り知れず、敷設工事に伴う京都北山の自然環境破壊が危惧されてなりません。
 京都北山は浸食の進んだ隆起準平原であり特に目立った山はありませんが、地域の生活や文化に根差した里山の典型でもあり、奥地には芦生京大研究林(演習林)に代表される、まだまだ後世に伝えるべき自然環境が残されています。
 古くは頼山陽に「山紫水明」と称され、前世紀には「北山からヒマラヤへ」と今西錦司・桑原武夫先生など数多くの文化人が親しまれた古都近傍の優れた自然環境を、後の世代に残していくのは京都府保険医協会の環境対策委員として、また京都岳人の一人としての務めと思われてなりません。
(環境対策委員長・武田 信英)

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