周閉経期の女性の健康管理を解説  PDF

 協会と京都産婦人科医会の共催で、産婦人科診療内容向上会を8月3日に京都市内のホテルにて開催。京都産婦人科医会理事で支払基金京都支部審査委員の井上卓也氏が「保険請求の留意事項と最近の審査事情」と題して、飯田橋レディースクリニック院長の岡野浩哉氏が「内因性および外因性助成ホルモンと心血管系疾患~脂質代謝・糖代謝・血圧に着目した女性の健康管理~」と題して講演した。出席は56人となった。

産婦人科診療内容向上会レポート

 講演に先立ってのあいさつでは、田村秀子会長が婦人科の診療報酬点数が他科(とりわけ内科)に比べ低いことを強調し、その構造的理由を述べられた。次に新しく京都保険医協会理事長に就任された鈴木卓氏のあいさつ。昨年に引き続いて井上卓也氏のいつもながらの理路整然とした保険請求の留意点などの解説に接し、あらためてレセプトチェックをしっかりせんといかんなと思い至った。
 さて、本日の特別講演は、東京は飯田橋で開業の岡野浩哉氏の女性医学の話で、個人的にも旧更年期医学会で先生の講演を受講したこともあり馴染みのある先生であった。
 実は昨年の向上会でも女性医学がテーマであったが、水沼英樹氏のご講演が近未来の婦人科医療の革新的な変動とその対策を話されたのに対し、岡野氏は周閉経期の心血管系のイベントについて骨の変化とは異なる点について重要なポイントを指摘していただいた。
 以下、順を追って思い出してみると、まずLEP(治療用低用量ピル)と静脈血栓症の関連は心筋梗塞や脳卒中の発症に比べかなり高頻度ではあるが、それでもなお極めてレアであり、VTE(静脈血栓症)のメカニズムを凝固と線溶の観点から述べられ抗凝固タンパクといわれるプロテインSやCの活性がLEPで下がる傾向にあるとのことだ。少し詳しく述べると凝固因子のフィブリンが溶解され(線溶現象)、その際に分解された物質がFDPでありFDPが分解される過程で4種類の姿に変化するが、そのひとつがDダイマーである。
 この最終産物の上昇が血栓形成の目安ではあるが、それはLEP投与の最初のほぼ3周期までに発症することが多く、休薬すれば直ちにダイマーは低値になり血栓の心配はなくなるらしい。
 加えて第2、第3世代のトリキュラーやマーベロンでやや血栓形成は起こりやすいとのことである。最後に内因性エストロゲンと心血管系疾患のイベントについて今後の臨床に有益な情報を提供していただいた。すなわち要約すると骨密度が閉経後速やかに低下するのに対し、心血管系はそれから10年ほど遅れて硬化するらしい。したがって動脈硬化が進んでいない段階で外側からHRT(ホルモン補充療法)を行えば有益だが、動脈硬化が進展してしまった段階でHRTをやると有害事象(血栓や炎症傾向)を生ずるとの結論を得た。質問は座長の田村会長から“HRTを勧めるときの殺し文句は何ですか”との問いに岡野氏はホルモン剤は本来、体内で分泌されている物質なのだから安全ですよと巧みにお答えになった。
(宇治久世・阿部 純)

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