憲法を考えるために 62 小さな出来事  PDF

 この夏の参院選、首相が札幌で街頭演説中に「安倍辞めろ」などと叫んだ男性や「増税反対」と叫んだ女性が、北海道警の警察官により強制的に現場から移動させられた。
 北海道警は「トラブルや犯罪の予防のための措置」と説明し、国家公安委員長も「トラブル防止の観点で措置を講じたと報告を受けている」と述べた(道警もこの小さな出来事が国家公安委員会に報告する事案と考えたのだろうか)。
 公職選挙法の選挙妨害罪が適用されるのは、最高裁判決によれば、聴衆が演説を聴き取れないほどの行為に限られるという。街頭で選挙カーのスピーカーを使っていた演説が少数の肉声のヤジで演説が聞こえなくなり、取り締まり対象になるだろうか。また警察官は犯罪がまさに行われようとしているのを認めたときに制止できるとしても、首相演説の現場にそんな状況があっただろうか。市民が街頭で発言したりビラを配るなどの表現行為の自由は、憲法で保障されている基本的人権の範疇に属するものである(また警察などの許可も当然に不要である)。この小さな出来事は、法的根拠のないままに、表現の自由など憲法にも係わる市民の権利を侵害してしまった大きな出来事ではないだろうか。
 憲法は、強大な権力を持つ国家から、その主権者たる国民の権利や自由を守るために国を規制する国民が定めた最高法規であり、その中で三権分立は権力の集中を防ぐ大切な仕組みであるのはいうまでもない。
 最近現政権は、異論に正面から向き合おうとしない傾向が強くなった。また最近忖度という言葉をよく耳にする。司法がその政権の意向を忖度して振る舞えば、それは憲法の根幹に係わるだけでなく、法執行機関として信を失い、犯罪捜査などにも支障が出かねない。
 大津で首相演説にヤジを飛ばした男性が、滋賀県警の警察官たちに取り囲まれた。参院選最終日に首相最後の演説をした東京では、警察が公道を鉄柵で囲い、動員された支持者以外を遠ざけた。
 小さな出来事が、繰り返されているのではないだろうか。そしてそれはいつか来た道を予告しているのではないだろうか。
(政策部会・飯田 哲夫)

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