診察室よもやま話 飯田 泰啓(相楽) 第9回 特定健診  PDF

 従来の基本健康診査に替って、2008年4月から特定健康診査が実施されている。
 特定健診は保険者が加入者に実施することになっている。組合管掌健康保険などでは特定健診受診率は高い。しかし市町村国保は国保に加入している住民が対象となるだけに特定健診受診率が低い。保険者努力支援制度の評価項目であり、行政は受診率の確保に必死にならざるを得ない。必然的に繰り返して受診勧奨を行うこととなる。
 糖尿病で定期的に受診されているBさんのもとにも特定健診を受診するようにと二回目の案内状が届いた。
 「先生、こんな手紙が役所から届いたのですが」
 「特定健診の受診勧奨ですね」
 「受けなければなりませんか」
 「そうですね。血糖やヘモグロビンA1cも検査項目に入っていますので、次の検査は特定健診を利用しましょう」
 18年4月より国民健康保険は都道府県単位化が実施されている。この仕組みの中で、医療費抑制に向けて、保険者のインセンティブ強化を図る制度設計がなされている。保険者努力支援制度として「医療費の適正化」に向けた保険者の取組などに対して財政援助をする仕組みである。
 特定健診・特定保健指導の実施率の他、がん検診受診率、糖尿病重症化予防の取組、重複服薬者に対する取組、後発医薬品の使用割合、保険料収納率、データヘルス計画策定、医療費通知の取組、地域包括ケア推進の取組などにそれぞれの配点があり、これらの加点の総得点によって按分されて交付金額が決まる仕組みが用意されている。
 国保係の職員は、特定健診の受診率が国保財政に直結するだけに必死である。そのために、未受診者に受診勧奨の封書を郵送している。私の町では今年は二回郵送して、なんとしても特定健診を受けさせようと必死である。
 私も、国保係の職員を知っていて、彼らが保険者努力をしなければならない立場にあることも分かる。基本健診の頃には、すでに通院している患者さんには取りたてて健診を受けてもらう必要もなく、その方が財政的にも負担が軽減できると言うのが行政との共通認識であった。
 しかし、特定健診になってからは、生活習慣病予防が目的とは言いながら、受診率を上げることが自己目的化している。
 必然的にすでに特定健診受診の予約をされている方や、健診が終わった患者さんにも封書で受診勧奨の案内状が届くこととなる。
 「先生、またこんな手紙が来たのですが。また別の検査があるのですか」
 「これは、この間、受診された特定健診の案内ですよ」
 「なにか不都合があって、もう一度受けるのですか」
 「いいえ。手紙を出す時には、健診を受けたとの報告が国保係に届いていなかっただけなのです」
 「切手代だけでも、馬鹿にならないのに。税金の無駄遣いですね」
 「そうなのですよ。通院中で血圧や糖尿病などの治療や指導をしている患者さんにも健診を受けるように連絡しているのですよ」
 「そうですか。私たちの業界でも、同じようなことがあります。ハイハイと言ってしたがっていますが、行政とのお付き合いは大変です」
 いやはや、特定健診の案内状の話のはずが、この国のあり方に関わるような話に発展する。このシーズンには患者さんと特定健診を話題にした会話が弾む。無駄が多いと思いながらも特定健診の受診率向上に協力しているが、それも努力が必要である。現在は個別検診となっている特定健診だが、受診率向上のために今後は集団検診との併用やがん検診との同時実施が検討されている。
 これほど大騒ぎをして始めた壮大な介入研究の特定健診・特定保健指導である。特定健診を制度化してから、心筋梗塞、脳卒中などの生活習慣病が減少したとのデータが本当に出るのか楽しみである。

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