続・記者の視点 95  PDF

読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
野党は「共闘」だけでは勝てない

 参院選で、自民党は9議席減らしたものの、公明党が3議席増やし、自公で過半数を維持した。準与党と呼ぶべき維新の会も3議席増やした。
 野党で立憲民主党が伸び、国民民主党が少し減らしたのは予想通り。1人区で無所属を中心に野党統一候補が10勝したのは健闘だろう。画期的なのは、れいわ新選組の2議席だが、これは立憲・共産の支持層を食った面もある。
 大きく見ると、参院の勢力分布はあまり変わっていない。安倍政権は国政選挙で6回続けて安定勢力を得た。
 自公維と改憲派無所属の合計で憲法改正の発議に必要な3分の2を割ったことに政治的意味はあるが、NHKから国民を守る党を加えれば、あと3人で3分の2に達する。すでに国民民主はぐらついており、自民党は発議に向けた手順を強気で進めるだろう。
 その手順が前へ進んだ場合でも座礁した場合でも、安倍首相は憲法改正をテーマに掲げて衆院解散・総選挙に打って出るのではないか。今秋から来春の間に総選挙がある可能性は高いと予測する。
 安倍政権は、安定した政治運営というより、あらゆる手段を用いて政権維持を図る傾向を強めており、右翼的心情に突き動かされる傾向も濃くなっているように見える。
 参院選の前に輸出規制を仕掛けた韓国とは、対立を激化させる方向へ持っていくだろう。見たくない光景だが、竹島あたりを舞台に日韓の軍事的トラブルが起き、ナショナリズムと排外主義をあおる勢力が声を張り上げて改憲に結びつけようとする事態が生じるかもしれない。
 では、野党側の視点に立った場合、どうすれば次の総選挙で政権獲得または現内閣退陣に持ち込めるだろうか。
 いま最もパワフルな政治家は山本太郎氏で、大衆の心情に訴えかけるワイルドさを備え、候補者擁立やネット活用など戦術面でも知恵を持つ。そこにたとえば元文部科学事務次官の前川喜平氏が加わり、さらに有力な女性が登場すれば、アピール力は高い。
 とはいえ、現行の衆院選は小選挙区がメインである。しかも現政権はマスメディアのコントロールを強めている。
 野党共闘に加え、れいわブームが起きたとしても、与野党の形勢を大きく変える結果には届きそうにない。石破茂氏が自民党を割って出るかどうかも事前には見通せない。
 野党側に手だてがあるとすれば「予備選」だと思う。
 立憲、共産、れいわ、社民などが基本政策で合意したうえで、小選挙区ごとの野党統一候補を、その地域で登録した野党支持者の投票で決める。基本政策を支持する一般市民も立てるようにする。
 政党間の調整ではなく、真剣勝負で予備選をやれば、メディアは取り上げる。政治への関心も知名度も上がる。
 投票管理などの技術的課題はあるが、今の有権者には政治・社会を自分たちが変えられるという感覚が弱く、主権者としてパワーレスになっている。「参加」の機会をつくることが肝心である。
 野党が新しい動きを見せれば、首相は早めに解散しようとする。それに対抗する知恵とスピードの勝負である。

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