続・記者の視点 92  PDF

大阪維新はなぜ勝ったのか
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平

 4月の統一地方選で際だった結果は、大阪維新の会が大阪府知事選・大阪市長選に勝ち、府議選、大阪市議選でも圧勝したことだ。
 なぜ維新が強かったのか。構図から見ると、知事・市長の入れ替え出馬という奇策で注目度を高め、攻めの選挙をやったことが大きい。しかも自分たちの土俵である「都構想」を争点にできた。
 対立候補が掲げたのは、反維新・反都構想という守りのスローガン。各党から支援を受けたこともあり、前向きのテーマを打ち出せなかった。
 同時に底流も見ておく必要がある。維新は、大阪では以前から安定した得票を得てきた。その基盤は何か。
 第1は経済だろう。たいていの大型選挙で有権者の投票行動を最も左右するのは、イデオロギーの絡む争点よりも生活経済、つまり自分の懐具合がどうなるかという点だ。
 今の経済状況はまずまずだというのが、維新や自民の支持層の感覚だろう。好景気とは言えなくても雇用情勢は良い。大阪では電機産業が沈んだものの、外国人観光客が急増した。維新が力を入れるイベントや大型公共事業は、経済を冷やす政策ではない。
 経済情勢は、ひどい状況でなければ、与党や現首長を否定する理由にはならない。維新は、大阪の経済の「成長を止めるな」と強調した。
 第2に、若い世代を含む現役層をつかんだ。大阪市内で見ると、維新の得票率が高いのは、タワーマンションが建って人口が増えた区、現役年齢層が多い区(高齢者の割合の少ない区)である。そこには改革のアピールが効いた。守ることより、変革することに期待するのだろう。
 第3は新自由主義に親和的な競争意識かもしれない。
 維新の強い区は、所得水準の相対的に高い区とかなり重なる。支持者の中心は中間層や上位の層ではないか。
 彼らも所得の伸び悩みには不満を持ち、下手したら没落するという不安を抱いている。だからこそ競争に負けずに自分の生活を保ちたい。
 弱者への再分配や社会保障を強めたら、自分たちの負担が増え、受け取りが減ると考える。パイの奪い合い意識である。役所のムダや公務員の安定には反感を覚える。
 第4は攻撃性だ。品がなくても本音をズケズケ言うことを好むのが大阪の風土。実績はともかく、改革をやっていると強い言葉で繰り返せば、パワフルに映る。公務員や労組への攻撃、歴史問題での右寄りの言動も、攻めの姿勢を小気味よく思う人々がいる。
 第5に地域でのこまめな日常活動。維新の中軸議員は元自民党で、地盤培養のノウハウを後進にも伝えている。
 以上のように見てくると、安倍政権の政策や行動パターンと共通点が多い。支持率を保っている背景は似ている。
 維新も安倍政権も、社会を共同体と考える穏健保守とは異なる。トランプ米大統領の誕生時のように低所得労働者の支持を得たわけでもない。
 では、対抗勢力に勝機はあるか。キーワードを挙げるなら、経済情勢の変動、イデオロギーより収入と生活、中低所得層の獲得、守りより攻めといったところだろうか。

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