医師が選んだ医事紛争事例 95  PDF

腫瘤破裂前の診断に問題あり

(0歳女児)
〈事故の概要と経過〉
 当該患者は0歳の女児。正常経膣分娩で出産。体重2918g、アプガールは8~9点であった。退院時の診察で仙骨部に有毛性のdimple が指摘されたが、腫瘤は認められなかった。その2日後には dimple上部に直径7㎜の嚢胞性腫瘤を触知したが、その他の異常は認められなかった。確率的に二分脊椎の可能性は低いと考え、1カ月検診の際に再度確認することにした。ところが患者の母親から二分脊椎や毛巣洞ではないかとの疑問が呈されたので、それらの症状の説明をするとともに、次回受診はやはり1カ月検診でよいと当該医師は判断した。その後、患者は他の医療機関を受診して、腫瘤の拡大を指摘されたため、あらためて当該医療機関を受診した(サイズは直径30㎜×20㎜)。そこで主治医に代わって上級医が、3日後にA医療機関の脳神経外科を受診するように指導した。ところが、患者は指導した同日に浸出液が出てきたとして当該医療機関を再受診したので、B医療機関を紹介しての救急受診となり、脊椎閉鎖不全閉鎖術を施行した。その際に黄色ブドウ球菌が確認されたが状態は良好で退院した。
 患者側の主張は以下の通り。
 ①最良の状態で専門医の紹介をすべきなのにそれを怠った②今後の治療費やその他の費用を相談したい③今回の経過を文書で提出してほしい。
 医療機関側は、③については文書を患者側に提出した。また、腫瘤が増大傾向にあった時点で専門医を紹介しなかったことや、腫瘤破裂前の診察で緊急性を自覚しなかったことについて過失があったと判断した。
 紛争発生から解決まで約2カ月間要した。
〈問題点〉
 まず、医療機関側の主張通り、腫瘤破裂前の診断に問題がある。主治医の代わりに上級医が患者を診察しているのだから、もっと早急に対応すべきであった。また、その数時間後に腫瘤が自壊して、感染の可能性が疑われるにもかかわらず、救急車も使用せずに患者の自家用車でB医療機関を受診させている。医療・医学的には大きな誤りでないにしても、緊急性をいかに自覚していないかが、うかがいしれた。さらに、事後の患者への説明文書の提出について、患者側とのやり取りを全てカルテ記載していたために、その全てを開示せざるを得なかったとの弁明であったが、そもそも事故報告書とカルテを混同している様子がうかがえた。
 今後はカルテに記載すべき内容と事故報告書に記載すべき内容を明確に区分する必要があるだろう。なお、患者に開示した文書は、当該医療機関の顧問弁護士が確認済みということであった。
〈結果〉
 医療機関側が全面的に過誤を認めたところ、患者側はその説明と謝罪に納得して、若干の賠償金支払いとなった。

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