シリーズ環境問題を考える 141  PDF

海洋プラスチック汚染がつきつけるもの

 米国海洋大気庁(NOAA)は、世界で一番深い、水深1万メートルを超えるマリアナ海溝の海底で見つかるゴミの映像を公開している。その多くはプラスチックごみが占めている。
 また、そこに生息する体長2センチメートルほどの、カイコウオオサソコエビという小さな甲殻類からは、中国で最もひどく汚染された川に生息するカニよりも50倍も高い濃度の汚染物質(ポリ塩化ビフェニル:PCBs)が検出されているという。研究者によれば、汚染物質が溜まっていることで名高い駿河湾とほぼ同レベルだそうで、PCBsなどの残留性有機汚染物質(POPs)は、プラスチックごみに効率よく吸着され、微小化したマイクロプラスチックを誤食することで、海洋生物に取り込まれ脂肪に蓄積し、食物連鎖を通して生物の体内にさらに蓄積されているようだ。
 PCBsは、危険性が判明し、1970年代から、製造と使用が禁止されてきたはずだが、私たちが人間活動の及ばない、原始の深海が残っていると思っていたのは「錯覚」で、海溝はまるでマイクロプラスチックごみのホットスポットのようになってしまっているようだ。
 ところで、世界中で、プラスチックの生産は、毎年5%増、2015年の総生産量は3億2千万トン。これまで、私たち人類が作り出てきたプラスチックの総量は実に83億トンにものぼる。また2050年までに海に捨てられるプラスチックごみの総重量は330億トン、その3%が海に入るとして、その量は10億トンを超え、海洋における魚類の全生物量8億トンを凌駕すると推定されている。
 プラスチック汚染は、地球上のあらゆるところに広がっており、特に近年、廃棄され自然環境下で直径5ミリメートル以下に微小化した、除去不能のマイクロプラスチックによる海洋汚染の影響が重大視されている。動物性プランクトンから鯨まで、約700腫の海洋生物種に影響が及んでおり、人体の健康への影響も危惧される。現代の生活は、完全にプラスチック社会であり、使い捨て文化である。
 私たちの現代医療もまた、プラスチックに完全に依存している。医療ゴミのコンテナを東南アジアに輸出することで、開発途上国に矛盾を押しつけ、国内の環境問題をすり抜けてきたこれまでのあり方は許されない。紙おむつから、医療器具まで、何を残し何を改めることが迫られるのか? プラスチック文化を考え直す時だ。
(環境対策委員・島津 恒敏)

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