地域医療をきく! 5 京丹後編  PDF

疲弊地域の医療は公的補助が不可欠

 地域の医療現場で抱える課題や実情を聞こうと、開始した「地域医療をきく!」。第5回は、京都の最北端、京丹後市の宇川診療所で2018年4月から所長を勤める松田哲朗医師に聞いた。宇川診療所は京丹後市国保直営で同地域唯一の診療所。丹後半島の先端地域で広い地域の医療を担っている。

――へき地医療を志したのは
 京都市内の病院で外科医として勤務し、50歳を過ぎてから「もっと人に感謝されるような仕事をしたい」と思い、自治医大時代の同窓生から情報を得て、青森県の今別診療所に赴任。5年の勤務を節目に、後任に引き継いで家族の待つ京都に戻ることにした。京都で探していたところ、当院の常勤医師がいなくて困っているというので決めた。週末のみ自宅のある京都市に帰っている。
――青森と比較して地域の課題は
 例えば、独居の方に何かあったとき、救急車で運ぶほどではないけれど、タクシーはない。いかにアクセスを確保するかなど青森と課題は共通している。当院は送迎に力を入れているが、行政がもっと力を注ぐべきである。今年1月に地域で唯一のスーパーが閉店し、手押し車で通えていたお年寄りたちが買い物をできるところがなくなった。地域にとっては医療機関と同じくらい大切なもの。実は当院も数年前に前の開設者が撤退することとなり、市が何とか残そうと直営にして、社会福祉法人が委託を受けて運営している。
 青森と異なるのは、京丹後市は比較的病院が多いこと。個人的には、いくつかの病院が統合して、集中治療のできるような総合病院化するべきではないかと思っている。
――国は「外来医師多数区域」での開業を規制して少数区域への移行を促そうとしているが、それでは少数区域での開業につながらないので、抜本的見直しが必要と協会は考えている。府内で唯一、医師少数区域となるこの地で頑張っているお一人として思いをお聞かせいただきたい
 青森で深刻に感じたのは、医療以前の問題で、地域が疲弊して、その維持が難しくなっていること。
 そんな中で医療を維持するためには、他に方法がないのなら、開業規制も一つの考えだと思う。ある程度規制して適正配置をしないと無理ではないかと思う。
――疲弊した地域そのものの回復は政治の問題。医業が成り立たないような地域の医療は、本来は公的医療機関が担うべきで、国の公的病院縮小政策は転換させるべき。当所のように開業医一人で支えている地域に、医師不足だからと開業を促しても経営的に成り立たず共倒れになる。公的に支える体制と財政が必要というのが協会の考え
 それはそのとおり。私的財産で、このような地域に開業しろと言われても無理な話で、補助なりバックアップが不可欠だ。
 医大の「地域枠」があまりうまくいっていないようだが、もっと厳しく運用して活用を図るべき。医局の時代はそれなりにうまく回っていたが、研修医制度が変わったことも大きく影響している。あまりに選択が自由だと、へき地を選ぶことはないのではないか。
――今後の抱負は
 医師会の会合にも参加せねばとは思っているが、何をするにもここは遠い。休みがとれないので学会にも出席できていないが、4月からは、代診に来ていただけるよう、他院にお願いしているところである。
 当院は、1年以上常勤医が不在だったため、患者が散ってしまっている。何とか戻していくのが当面の目標。いくらいい仕事をしても地域の人に認められるまで数年はかかる。青森では、3年目からやっと認められてきたというのが実感だ。

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