丹後半島 心の原風景 第9話 辻 俊明(西陣)  PDF

深い緑を鑑賞できる京都丹後鉄道

 京都丹後鉄道(丹鉄)は半島内を東西、南北に走る。豊岡~西舞鶴は各停で2時間、宮津~福知山は50分。近年、乗客数はピーク時の6割程度にまで落ち込んでいるそうだ。5年前から第三セクター北近畿タンゴ鉄道(KTR)の赤字体質改善のため、KTRが施設を保有し、民間企業が運営を行うという上下分離方式をとっている。廃線にならないよう、なんとか踏んばってほしい。
 宮津~福知山は短い距離なのに14も駅があるから、普通列車はおよそ3分おきに停まりながら大江山の深い山あいを進むことになる。自動車道とは離れたルートなので、景色の中に車や民家はほとんどない。あるのは緑の山々。停車時には小川のせせらぎが聞こえてくる。どの駅も無人で、夜になると誰も乗り降りせず、ドアは自動では開かず、近くに店もなく、あたり一帯山の中で真っ暗。夏、蛍くらい出てきてほしいが、出ることはない。ただ蛾が舞っているだけ。この飾り気のない景色は、しかしながら、少しの感傷を伴って、かつて夏休みに楽しく過ごした林間キャンプを思い出させてくれる。ただしここでも朝夕の通学時間帯には立ち人が出るくらい多くの生徒が乗り込む。
 豊岡~西舞鶴は車窓から海をたっぷり見ることができるのではないかと思われがちだが、そうではない。全路線を通じて由良川~天橋立あたりで少しの間見えるだけ。あとは山か田園風景。海の見える時間をすべて足しても10分に満たないだろう。しかし由良の景勝地奈具海岸では、観光列車はわざわざ一時停車し、由良川橋梁では最徐行して乗客に海を見せてくれる。晴れた日には真っ青な空と海がはるか遠くで一つに溶け合っている。
 冬、とんでもなく多く雪が降れば列車は止まるが、たいていなら普通に走る。丹鉄全区間で一番雪が多く積もるのは豊岡~久美浜だ。雪の降った翌朝、線路から周りの田畑まですべて白く一体化した中を、すべるように列車は走る。
 車両は1~2両編成のディーゼル車で、中には前から後ろまで切れ目のない一列横すわり座席という珍しいものもある(写真)。
 最近あおまつ号、あかまつ号、くろまつ号というカフェ、食事付きの観光列車が定期運行している。あおまつ号は予約なし追加運賃なしで、アテンダントさんが350円の紙コップコーヒーを出してくれる。あかまつ号は予約が要り、コーヒーのほかビールが出る。くろまつ号はレストラン列車で数千円~1万円の料理が出る。

端から端まで横一列座席、普通列車
運転席からの眺め
「あかまつ」 のアテンダントさん

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