丹後半島 心の原風景 第8話 辻 俊明(西陣)  PDF

海面輝く夕日ショーを堪能夕日ヶ浦

 経ヶ岬を境にして、丹後半島の東側では海から昇る朝日が見え、西側では海に沈む夕日が見える。ただし秋冬の半年間は毎日厚い雲に覆われるので、太陽が見えるのは春夏の半年間だけだ。半島の西側に位置する網野には、夕日百選に選ばれた夕日ヶ浦と名付けられた浜があり、夕日を見るためのベンチが備えられ、実際、観光客も多い。朝日ヶ浦はなく、夕日ヶ浦があるのは何故か。夕日の後には、ムーディーな夜が訪れるから。
 夏の晴れた日にベンチに座れば、ここが夕日の名所であることがわかる。
 夕日ヶ浦海岸は西隣の久美浜まで続く白砂青松の全長8㎞にも及ぶ長いビーチ。兵庫県の海岸線まで眺望できる。季節によって、見る場所によって、太陽は岬に、あるいは海に沈み、東側からみれば真正面の海に沈む。
 波打ち際で見ていると、午後3時半頃に西側の海面がキラキラ輝き始める。無数の太陽光の反射がさざ波の中で一瞬光り、すぐ所を変えてまた光る。まるで光の妖精たちがそこら中でチャットしているようだ。時間とともに反射の数は増し、水面はますます饒舌になる。ダイヤモンドはカット数が多くなれば、より輝くのと同じこと。かくして夕日ショーは山場を迎える。
 ずっとベンチに座って風の音、波の音に耳を澄ましていると、空は青から茜色、金色に変わり、日が沈むと漁火、満天の星、月が現れ、星も流れる。夕日のきれいなベンチは、いつしか星空の誘惑へと変わる。
 海に沈む夕日は青春の終わりを告げるものではなく、明日もその次も昇る太陽の永遠性を表すものである。過ぎ去ったあの頃を振り返るより、これから起こる未来の夢を想い描こう、何のためらいもなく、 Comme des gar■ns 少年のように。
 夕日ヶ浦には料理旅館が多数あり、冬になるとカニを食べて温泉に浸かろうと全国から人々がやってくる。ただし冬の間、夕日は見えない。
 ここには10年ほど前まで喫茶店はなかったが、最近2軒できた。海岸から100メートルのジェラートのおいしい喫茶店。たまにしか開いていない。もう一つは海から離れた丹鉄夕日ヶ浦木津温泉駅前で、5年前にできた。近くの大手旅館の系列で、店員さんは桜の開花時期など地元の話をさりげなくしてくれる。ずっと正午までの営業であったが、去年から午後4時までやるようになった。中には丹後の風景写真家の作品が多数展示してあり、海の気配を間近に感じながらゆっくりコーヒーを味わうことができる。

夕日を見るベンチ
夕日ショー
夕日ヶ浦駅前の喫茶店
海まで100メートル

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