主張 信頼揺らぐ日本のデータ ~問われる民主主義・人権意識の成熟度  PDF

 現在通常国会では、厚労省の毎月勤労統計の不正を巡って連日議論が交わされている。国家統計はその国を自他ともに正確に評価する最重要指標として、公文書保存とともに近代国家では極めて重視されてきたものである。
 統計データの結果評価は議論が分かれようが、互いに元データは正確であるという大前提の上に立っている。ところが何と国の基幹統計の4割で何らかの不正が見つかったと言う。恣意的であろうがなかろうが不正確は許されない。まして不正や捏造をや。問題は、本来この不正を巡っては与野党を問わず全国会議員が、また行政府が事実関係を解明し正しく修正して責任(者)を追及すべき立場にあるにもかかわらず、総理をはじめ閣僚・官僚トップにその理解や見識が全くないことである。自ら率先して官僚たちを叱責し、処分して然るべきである。逆に容認・擁護しているのであれば、データ不正に何らかの行政府の指示や意向の忖度があったと勘繰られても致し方がない。統計不正とは言わないが、政府は2016年国のGDP値計算法の見直しを指示し、ここ数年のGDP値が“結果的に”毎年約20兆円の押し上げとなっている。その最大要因が「その他」項目の追加によるがその内容は「内訳表に“近いもの”」としての公表しかなく、正確性の担保は全くない。
 政府は2000年「IT戦略本部」を立ち上げ、毎年「e-Japan戦略」等々を掲げて「毎年5年以内に世界最先端IT立国を達成する」ハズであった。その結果が今日世界で「周回遅れ」と評される体たらく。何よりも旗振り役だった経産省等の省庁、推進主体であったNTTデータ等の企業の部門責任者に、構想力やイノベーション力がないにもかかわらずそれを糊塗し組織の論理の中に改革力を押し込め、基礎的研究や人材育成に資金を集中投入してこなかったことが大きい。メンタリティとして勤労統計不正と通底していると思えてならない。
 今日先進国はIT巨大企業の情報独占や課税逃れの追及に動き出している。EUで昨年「一般データ保護規則(GDPR)」を発効したところ個人情報保護(忘れられる権利等)を求めてGAFA等に対する提訴がすでに10万件に達している。日本は本年GDPRに加わった。ところが昨年政府の「規制改革推進会議」では「次世代医療基盤法」の成立で医療データの第三者提供について同意取得が簡便になったとして、企業に利活用を促している。これはGDPRの規定に逆行・抵触している。いずれさまざまな提訴が起こるであろうが、このような面でも日本はまた世界から取り残されそうだ。ビッグデータ時代の思想とグランドデザインを根本から構築し直さなければ、挽回は不可能であろう。

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