特集 地域紹介シリーズ 19 右京都鄙共生  PDF

 協会は、地域紹介シリーズ第19弾の「右京」座談会を右京医師会館で10月4日に開催。出席者は一般社団法人右京医師会会長の高島啓文氏、副会長の松木正人氏、理事の伊藤照明氏で、右京区の地域医療の現状について語っていただいた。

支援センター核に
総合病院のような右京に

右京区の特徴

 高島 右京区は、京都市内では面積が一番広く、人口では伏見区に次いで2番目の多さです。市内で高齢化率が圧倒的に高いのは東山区、山科区で、それに北区、伏見区が続き、その次が右京区です。東山区や山科区のように深刻な高齢化ではありませんが、市全体の平均高齢化率よりは高くなっています。
 右京区の特徴的なことは、へき地を抱えていることです。京北、宕陰とう いん、水尾という広大な地区があります。とくに台風21号の災害で、市内において最後まで停電が続いたのが水尾地区です。京北では道路が1週間以上通行止めとなりました。へき地医療をどうするのか、人口過疎地をどうするのか。また過疎地区ほど高齢化率は高いわけですから、そういう問題も含めて日本の縮図的なところがあると思います。

意外と積極的な在宅医療の意識

 高島 右京医師会は市内で唯一、医師会が訪問看護ステーション、それに居宅介護支援事業所を持っています。在宅医療の支援については、中京区では東部と西部の両医師会合同で組織を作り運営されていたことがありますが、右京区ではもとから居宅をもっていました。そういったこともあって、2017年10月から右京区在宅医療・介護連携支援センターの設立を準備し、同年12月から正式にサービスを開始しています。南区・下京区でも同様のサービスを始めています。(18年10月4日現在)
 センター開始にあたり、医師会で会員向けに在宅医療に関するアンケート調査を行いました。145の医療機関中73施設から回答があり、在宅医療への取り組みを「積極的に増やす」7%、「可能な範囲で増やす」26%となっています(図1)。私の印象では、結構多くの医療機関が在宅医療を考えているようです。また、「積極的に増やす」「可能な範囲で増やす」と回答したところを診療科別に見ると、内科20、整形外科4、眼科3、耳鼻咽喉科2、精神科2、泌尿器科1、皮膚科1と多科にわたっています(図2)。
 実際、私も支援センターを通して眼科を紹介してもらっています。このアンケートで在宅医療に対する会員の気持ちがわかったことに加え、積極的な医療機関が多科にわたっていることも判明しました。

認知度高い支援センター

 伊藤 右京医師会には在宅医療推進委員会があり、私が担当理事をしています。年に8回程度右京区の多職種関係者向けに研修会を開催、市民公開講座も年1回行っています。さらに右京医師会に訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所が併設していることから、京都市から右京医師会に対し、他地区に先駆けてセンター開設の依頼がありました。
 センターを開設してこれまでと何が変わったか。一番はコーディネーターを雇用できるようになったことです。これにより医療介護福祉関係者からの相談を受けることができるようになりました。医療関係者、介護関係者、福祉関係者、行政関係者が在宅療養で困難にぶつかったとき、相談できる窓口ができたのです。
 相談件数は、2017年12月から18年9月までの10カ月で119件あり、ひと月あたり12件の相談が寄せられていることになります。これは当初想定していたよりも多い件数です。相談内容で多いのは、往診医の紹介希望60件で全体の約半分を占めます。ほとんどの相談において、問題なく往診医につなげています。ただし精神科領域に関しては、右京医師会だけでは解決できない現状があります。一方、相談者の内訳は、ケアマネジャーが50件、医療機関が30件、地域包括センターが17件でした。
 また往診医の紹介希望だけでなく、入院希望の相談も何件かあります。いずれも右京区内の病院に受け入れてもらっています。そういった点でもセンターの果たしている役割は大きいと思います。支援センターは右京区内ではかなり認知され、頼りにされている機関になっていると考えています。
 高島 支援センターを認知してもらう必要がありますので、ケアマネジャーに何かあるときはセンターを通してもらうよう意識づけする努力を行っていますね。
 伊藤 そうですね。開設当初、右京区のケアマネジャーの連絡会や地域包括センター連絡会で、何度もセンターの説明をしてきました。ただし、全部の事業所に伝わっているかというとなかなか難しいです。
 高島 こうした新しい取組みは大切なことですが、周知が難しい。ケアマネジャーが知っている医師に直接連絡して対応するということでは、結局センターの意味がありません。

区全体が一つの総合病院に──専門科の役割

 高島 ところで、松木先生はセンターから患者さんをお願いされることが多いと思います。大変じゃないですか。
 松木 私は右京医師会で訪問看護ステーションと居宅支援事業所の担当理事もしている関係からか、内科の医師から皮膚疾患の患者さんを診て下さいと依頼されることがよくあります。これには積極的に応えることにしています。患者さんは内科医に対して、皮膚疾患に関する訴えをされることが多いんですね。ちょっとしたすり傷で相談されることもあります。そうなると内科医が本来するべきことができなくなってしまう。皮膚に関するトラブルはできるだけ皮膚科医が診るようにしていくべきだと考えています。
 そうすることで、内科医が本来の仕事をできるようになる。眼科や耳鼻咽喉科、歯科など単科が積極的に在宅医療に関わることで、支援センターへの依頼にもつながると思います。右京区全体が一つの病院のような機能を持つようになる。そんな在宅医療が推進されていけば、今後の日本の医療費も下がるのではないかと思っています。
 高島 入浴介助をするヘルパーや看護師が、患者の湿疹や褥瘡を見つけることがよくあります。しかし、女性の場合、部位によっては医師に診せてくれないことがあるんですね。私などは、「診せたくない」という患者さんの言葉をよいことに、すぐに任せるようにしています(笑)。

外来との医療の質の差

 伊藤 皮膚科の往診についてお聞きしたいことがあります。湿疹の鑑別が大きな仕事になると思うのですが、外来診察と往診では診療の質に差はあるのですか。
 松木 できるだけ変わらないようには努めています。ただし処置、例えばウオノメが足の裏にあり、痛くて靴が履けないという訴えの場合、往診先に道具と照明器具を持っていって行うわけですが、施術者が寝そべるなど結構辛い体勢になって処置することになります。ですので、可能なら診療所に来ていただいたほうが、こちらとしては楽ですね。しかし、質で言うと、全然問題ないです。
 顕微鏡検査に関しては、必ず持ち帰って数時間以内に顕微鏡検査をします。疥癬の検査は現在はダーモスコピーのスクリーニングでほぼわかります。これはポケットに入るサイズで、その場で診断できます。
 伊藤 眼科、耳鼻咽喉科の往診をしてほしいという依頼は介護関係者からあるのですが、眼科の医師に聞くと、車椅子で移動ができる患者さんであれば診療所まで連れてきてほしいとおっしゃいます。診療の質が、在宅医療と外来とでは差があるように思います。各科による診療の質の違いについて、多職種関係者に知ってもらうほうがよいと感じています。

医師会未加入の在宅医との関係

 高島 今後、内科の往診医は足りなくなっていくと思います。在宅医療専門のクリニックもできていますが、今後は病院が在宅医療部門を作るようになってくるでしょうね。
 入院での利益率を国は下げていく方向ですから、先進的な病院はどんどん在宅医療に乗り出してきています。以前は個人病院が在宅医療をすることはありましたが、今は、大きな病院もやるようになってきていますね。
 伊藤 京北病院も積極的です。
 高島 逆に言うと、京北のような地域は在宅医療をしていかないと病院としてやっていけないでしょう。長野県の諏訪中央病院のようなイメージでしょうか。また、やっていただきたい地区ですよね。
 松木 在宅療養支援診療所の届出をしているところは右京区にいくつあるんですか。
 伊藤 結構多くて20~30機関はありますね。
 高島 在宅医療を進めるにあたって、強化型支援診療所の連携型はネットワークを組める仕組みになっています。しかし、敷居が非常に高い。特に月1回カンファレンスを開くとか、情報の共有とか。診療所の医師同士、時間を合わせること自体が結構大変なことです。通常の診療以外にも行政がらみの仕事や会議、健康診断など、いろいろありますから。
 松木 一方で、在宅医療専門の診療所は、地区医師会に加入していないところが多いですよね。それもセンターの運営を考えると課題の一つです。
 伊藤 センターはあくまでも行政から委託された機関であって、医師会加入未加入にかかわらず、公平に扱うことにしています。
 高島 センターは公平に扱っているつもりなんですが、向こうがあまり近づいてきてくれない現状がありますね。全然接点がありません。
 伊藤 施設を中心に往診されているところもあります。
 高島 中には町中で積極的にやっておられるところもありますよ。医師会未加入の在宅医療専門クリニックとどう関係を作っていけるのか、今後の支援センターの大きな課題だと思います。府医師会としては、オールドクターじゃないとこれからの在宅医療の需要の増加には立ち向かうことができないから、連携していくとのことですけど。
 松木 診療報酬もその辺りを考慮して、医師会に加入しないと点数が取れないということにしてもらうとか。
 高島 保険医協会はきっと反対すると思いますが、私も医師会等の団体に入ると点数が高くなるという考えには賛成です。
 地区医師会にしろ保険医協会にしろ、会員のために活動している。その活動資金は会員が出しています。現実にそうした点数ができるとは思っていません。しかし、そういう思いはあります。
 一番問題なのは、こういった実情があることを支援センターの京都市の担当者が知らないことです。

増加する外国人観光客への対応

 松木 ところで、話が変わりますが、右京区には有名な寺社仏閣が多いので、高島先生のところには観光客が受診されることは多いでしょうね。
 高島 多いですね。今の時期、中国から観光客が大勢来られています。外国人観光客は月に1人以上は受診に来られます。英語を話す医師がいるということでこちらに回されることも多いですね。
 松木 たしかに右京区は、多いですね。私のところにも月に1人か2人くらいは来られます。
 高島 支払いについては、まずはじめに、自費になるがそれでもよいかと確認します。高くても5000~6000円です。アメリカなら、1回2万円くらい支払うことも普通ですから、彼らからすると自費でも安い感覚のようです。
 ただし、うちの場合は入院がありませんので、支払いのトラブルは多くないんだろうと思います。入院を抱えているところは大変みたいですね。額も大きいし。いつの間にかベッドからいなくなるということもあるようです。

災害時の福祉施設の活用

 松木 右京区には、桂川があり、先日の大雨でも氾濫する危険がありました。右京医師会は災害医療にも取り組んでいますが、今後この分野でも行政とも連携していく必要がありますね。この間も初めて行政と合同で防災訓練をやりました。しかし消防署の人と話してみると、結局発災時には何もできないと無力さを感じます。
 高島 行政の職員やデイサービスセンターの職員と話していて、災害時にデイサービスセンターをどうするかという議論になりました。マニュアルではデイサービスセンターの利用者も避難指示が出ると避難しなければなりません。しかし大規模災害が起こったとき、機能しているデイサービスセンターは逆に、人を受け入れなければならないと私は考えています。動けない人、障害者、普段から車椅子を利用されている人が、なぜわざわざ体育館に行かなければならないのか。デイサービスセンターならベッドもあります。機能しているデイサービスセンターや介護福祉施設を準災害時避難拠点にして最大利用してはどうかというのが、私のアイデアです。
 と言いますのは、福祉避難所は、災害発生から3日目に開くことになっているんです。福祉避難所に指定されているところも被災しているかもしれませんので、ある程度時間を置かないと受け入れられるかどうかわかりませんから。だから、現状ではまず一時避難所に行くことになります。寝たきりの人を一時避難所まで連れて行って、数日後、福祉避難所にまた移動させなければならないのです。そういったことを誰がするんですか。仕組みを変えなければならないと思います。現在行政は、在宅患者を増やすと言って、机上で数字の割り振りをしています。しかし、ハードの部分、災害時に大勢増えた在宅患者を誰がどう守るのか。そういうことまで網羅した計画になっていません。

サービス提供できないへき地

 高島 右京区のへき地医療をどうするか。例えば京北地区は災害時には頻繁にメインストリートが寸断される事態になります。京都市中心部に行こうにも、京都市内でありながらいったん園部町を経由しなければならないこともあります。水尾地区は一番陸の孤島になりやすいところです。嵯峨から向かう道も京北方面に抜ける道も狭い。今回の水害でも一番長期間停電しました。水尾の先の宕陰地区は京都に出るよりは八木町に出る道のほうが圧倒的に利用しやすい。
 ところが、要支援は行政区単位の扱いになっているので、そういった地区にも京都市内の業者しか入れない。要介護になると、市外の業者も入れますので、市が契約している八木の事業所のデイサービスを使うこともできます。しかし要支援だと京都市内の業者しか行くことができない。ヘルパーも同様です。これは2017年4月から、要支援者のサービスが市町村ごとに切り離されてからずっと問題として挙がっていることですが、いまだ何の解決策も取られていません。

かかりつけ医と在宅医

 高島 私がいま一番問題だと思うことは、いわゆる「かかりつけ医」をやる人が減っていることです。予防接種、検診、学校医、園医、区民運動会の立ち会い、市民公開講座での講師。住民が健康なときからその地域に関わっているというのが、かかりつけ医の一つの姿だと思います。その延長線上に医療があるのです。だから、かかりつけ医イコール在宅医療をしているというイメージがありますが、そうではないんです。在宅医療をしている医師でも、かかりつけ医の仕事をまったくしていない人もいます。人生の終末期に関わっているにすぎません。終末期の患者さんは在宅医療専門医や、病院の在宅医療部門が担ってくれればなんとかなるけれども、右京区ではその手前のことをしてくれる医師がどんどん減っています(図3)。
 この10年間で右京医師会内の医療機関数を見ると、新規開業が18施設で、そのうち内科系が9施設です。一方閉院・移転は20施設、内科系は14施設です。10年間で内科系の数はマイナス5です。過去5年を見ると、新規が8施設でうち内科系が3施設しかありません。しかも3施設といっても心療内科が二つ、もう一つは循環器専門の医師です。つまり、この5年間、いわゆるかかりつけ医を目指す内科医は1人も開業していないことになります。一方、閉院・移転は16施設でうち内科系は10施設です。単純計算だけでもマイナス7です。
 ですから、学校医をされている方が定年で辞められると、次の医師を見つけるのにも苦労します。特定健診に参加できる医師は減少しています。全然埋まらないのです。私は学校医のほか、里親施設の顧問医や園医もやっています。どれだけ働かすねん(笑)。
 いわゆるかかりつけ医、在宅医療専門とする医師以外もなんとかしないといけない。

イタリア家庭医の現実

 松木 かかりつけ医というのは、主に内科がやるべきだと思われますか。単科の医師がかかりつけ医をするとしたらどういう弊害があると考えられますか。
 高島 ほぼないんじゃないでしょうか。語弊があるかもしれませんが、自分のテリトリーがどこまでかということを知っておくことが一番大切です。
 かかりつけ医を通さないと単科を受診できない制度をつくろうという動きがありますが、問題が多いですね。この前、イタリア人の家庭医と懇談する機会がありました。その医師が所有している医療機器は、心電図と聴診器と血圧計だけなんだそうです。エコー検査の必要がある患者さんがいると、病院に紹介状を書いて行ってもらうそうです。診察して甲状腺機能亢進症を疑った場合、私でしたら採血して終わりだけど、イタリアの場合、自院ではできず、専門医のところで採血してもらわなければならないのです。イタリアの家庭医の仕事の7割はそういった仕事、振り分けるのが仕事なんだと言っていました。しかも患者さんの1人当たりの診察時間は3分くらいしかない。
 話を戻すと、単科の医師でもかかりつけ医になることができると思うのです。学校医も皮膚科の医師はおられないかもしれませんが、耳鼻咽喉科の医師は大勢います。今後子どもの数が減っていくとはいっても、学校の数自体はそう減るわけではないので、学校医の数はあまり変わることがないんです。
 いっそ現在の学校医制度をやめてはどうかと思います。例えば大学病院を定年になった医師を市が雇って学校に巡回させてもよいのではないでしょうか。
 松木 確かにね。
 高島 地域にいる医師、かかりつけ医をやっている医師が学校医をするのがよいという理由もわからないでもありませんが、昔と今とでは事情が違います。昔は学校医をしていたら、その学校の子どもは、病気になればその医師の医院を受診するというメリットがあったので、学校医になっていたものです。しかし今はそうではないですからね。みんな小児科専門医のところに行かれます。それでよいと思うのです。学校医としての仕事の大部分は検診事業ですから。

総合診療専門医はかかりつけ医になるのか

 松木 総合診療専門医というんですかね。
 高島 それがまた微妙で、伊藤先生は総合診療専門医はかかりつけ医になると思いますか。
 伊藤 今のところは病院だけですね。
 高島 国が目指しているのは、救急専門医というイメージですね。だから総合診療専門医が増えたからといって、いわゆるかかりつけ医のような医師が増えることはありません。府医や日医はかかりつけ医の研修を積極的にやっているけど、若い人の心にどれだけ響いているか。
 私が医師になった当時は大学が大講座制だった頃で、その中で循環器内科、消化器内科、糖尿内科などに分かれていきましたから専門的なこともわかります。それが私よりちょっと下の年代になると、最初から循環器内科で研修しました、消化器内科で研修しましたとなります。ですから開業しても、「内科、消化器内科」という順番ではなく「消化器内科、内科」あるいは「循環器内科、内科」と標榜することになります。そういった人たちはかかりつけ医というよりも、専門医として外来開業をされています。第一標榜科に「内科」とあげて開業する医師はほぼないんじゃないでしょうか(笑)。

京都に医師は足りているのか

 松木 国は医師の偏在を解消しようと、プロジェクトを作っていますよね。そういう動きに任せるというか、待つしかないんじゃないでしょうか。制度的になんとかしないと。
 高島 それはそうなんですが、しかし今偏在と言っているのは、京都市の場合、京都市・乙訓医療圏という広いエリアでのことです。お年寄りの行動半径をどれくらいに設定して、医師の偏在を議論しているのか疑問ですね。
 松木 今は開業を制限すると独占禁止法違反で、新規開業を拒否することはできません。しかし、今後は例えば皮膚科が多すぎる場合は、他の地域でやってくれとか、内科が少ないのだったら内科を優先的に開業してもらうとか、そういうふうに変えていかないと、無理ではないでしょうか。
 高島 まず、現状で医師が足りているのかいないのかについての調査が必要なんじゃないでしょうか。
 例えば仮に右京区で、「内科医は足りていますか」というアンケートがあったら、私は「足りていない」と答えます。外来に来られる患者さんの人数が少なくなって困っていますと答える医師は多いかもしれません。しかし、在宅医療をする医師、かかりつけ医の数を見ると、私は少ないと思うのです。それらを「内科医」とひとくくりにし、足りているかいないかという議論だけでは、現状が見えてこないと思います。
 例えば、皮膚科を例にしますと、うちに来られる患者さんに、この周辺(嵯峨)にある皮膚科は現在すぐ近くの診療所以外に梅津と太秦にもありますと言うと、おそらく「そんな遠いところまで行くの?」と言われると思います。お年寄りの距離感では、梅津でも遠いんです。
 医師の偏在問題での現在の議論は、実態調査がなく、単なる数の問題としてなされている気がします。

在宅死──数字に隠された実態

 伊藤 在宅医療が活発かどうかの指標として、在宅死の割合があります。全死亡者数に対する在宅での死亡者数の割合のことです。全国的に見ると人口20万人以上の自治体で、多いところで22%、低いところでは8%となっており、在宅医療の手厚さを反映しているとされています。しかし在宅死の割合が本当に在宅医療の手厚さを反映しているのか、非常に疑問があります。
 というのは、一般に在宅での病死といっても、かかりつけ医が病死で看取る場合と、警察が関わる場合があるからです。警察は検案した上で、病死、溺死、焼死、あるいは他殺などと判断します。在宅での死亡にもさまざまなケースがあるのです。つまり、在宅死イコール在宅看取りではありません。
 その実態について調べてみました。右京区で2016年の死亡数は1926人です。うち自宅での死亡数が299人。自宅での死亡率は15・5%になります。一方、17年の警察の検案件数は200人、うち病死は160人、そのうちの自宅での病死は140人でした(表1)。
 以上のデータから計算すると、自宅で病死して検案になった割合は49%になりました(図4)。つまりかかりつけ医が看取ったのは半数以上です。他地区と比較すると、かかりつけ医が看取った比率は右京区が一番高くなっています。自宅で病死してもかかりつけ医が看取った率が10%以下という区もあります。つまりこの区では自宅で病死した人の9割以上は警察が検案した上で病死と判断しているわけです。データを見る限り、右京区ではかかりつけ医がかなり自宅看取りを頑張っていると推測されます。
 自宅で病死したにもかかわらず、警察が介入する具体的なケースを調べると、その地区の事情といいますか、自宅死のリアルな現状が見えてきます。そういった現状や問題点を把握した上で、何が足りないのか、どうしたらよいのか対策を立てていくことが今後必要だと考えます。
 高島 在宅医療はお金の問題がどうしてもついて回りますね。病院の入院費は上限が決まっています。在宅医療では患者さんが医療機関に支払う額はしれていますが、訪問看護に支払う額はそれなりになります。だから、お金が払えないからという理由で訪問看護を断られる患者さんは結構おられますよね。
 伊藤 がんを患っていて65歳未満で3割負担の場合、かなり厳しくなります。
 高島 個人的な意見としては、外来と在宅医療の点数のバランスが不均衡だと感じることがあります。時と場合によりますが、在宅医療では患者さんの負担がすごい額になることもあるでしょ。
 患者さんの元には最終的には一部戻ってきますが、いったんは払わなければならない。もちろんこちらが算定しないという選択肢はありますけどね。だから患者さんの顔色を見て、払えそうかなあと考えることもあります。

真の働き方改革を

 高島 今後も支援センターを上手に活用しながら、右京区で在宅医療を広げていこうと思っているのですが、いかんせんマンパワー、人手がないというのが最大の問題ですね。
 足りないのは医師だけではありません。訪問看護師やヘルパーさんも、今後はどんどん減っていく可能性がある。
 そういった問題にどう対処して、在宅医療を広げていこうとしているのか、あまり見えてきません。政府は予算をつけたらなんとかなると思っているのかもしれませんが、そんな時代はもう終わっています。
 例えば労働環境を改善することも重要でしょう。膨大な書類作成に費やす時間をなんとかしてくれたら、それだけで大きな働き方改革になります。
 右京区には、一見すると医師がいっぱいいるようだけども、足りていないところが多々あるのではないかというのが、今私が強く感じていることです。本日はありがとうございました。

図1 医療機関数(%)

図2 診療科別内訳(件)

図3 地域医療への関わり

図4 自宅で「病死」のうち、検案になった割合
表1・図4 データ提供 藤田祝子氏(下京西部)・伊藤照明氏

表1 総死亡数における死体検案の割合

京都府 京都市 下京区 南区 右京区
総死亡者数(2016年) 25.850 13.966 796 999 1.926
自宅死数(上記に対する割合) 2.165(15.5%) 122(15.3%) 127(12.7%) 299(15.5%)
総検案件数(2017年)(総死亡数に対する割合) 2.820(10.9%) 1.650(11.8%) 100(12.6%) 160(16.0%) 200(10.4%)
検案中の病死(総検案件数に対する割合) 2.130(75.6%) 1.300(78.8%) 80(80.0%) 120(75.0%) 160(80.0%)
検案中病死の自宅死数(総検案件数に対する割合) 1.910(67.7%) 1.200(72.7%) 70(70.0%) 110(68.7%) 140(70.0%)
上記うちの独居(自宅検案数に対する割合) 930(48.7%) 640(53.3%) 40(57.1%) 70(63.6%) 60(42.9%)

出典:京都市統計ポータル(国勢調査)
   京都府警察本部への聞き取り調査 南区警察医:清水医院 清水忠雄先生

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