京都府の“3000円負担は重すぎる” 貧困層を医療から遠ざける負担をゼロに 子ども医療ネット講演会で和田医師  PDF

 子ども医療費助成について、京都府の3歳以上通院月3000円負担は重すぎるという声を受けて、府は検討会で拡充に向けた検討を行っている。そんな中、子どもの貧困と医療費を考えるため、協会などでつくる「子ども医療京都ネット」は「反貧困ネットワーク京都」と共催で12月2日、講演会をこどもみらい館で開催。50人が参加した。長野県の健和会病院院長の和田浩氏(日本外来小児科学会「子どもの貧困問題検討会」代表世話人)が講演し、それを受けて尾藤廣喜弁護士と和田氏の対談を行った。

 和田氏は、長野県の無料化運動について、償還払い(1件500円負担)の制度でも受診できない子どもがいることを実例で訴えて中学生までの現物給付化を実現したと紹介。京都府の3000円負担は、それ以上にハードルが高く、「普通ではない」ことを発信すれば、多くの共感を呼ぶはずだと話した。

困難を抱えた人とどう向き合うか

 小児科医療の現場での貧困のあらわれについて、「定期通院に来ない場合に『貧困があるのでは』と考える必要がある」と言われ、はじめて自分の患者(事例①)にも思い当たるようになったと語った。ただし、困難を抱えた親は、貧乏だけど健気な親子というイメージを抱いていると、そうでない人たちの方が多いので裏切られることが多い。「助けて」と言えない、コミュニケーションが苦手で、外見や態度が受け入れがたいなど、「援助したい気持ちになりにくい人」である場合が多いと率直に語った。そういう人たちが「助けて」と言えるには、「自分は助けられるに値する、生きるに値する人間である」という自己肯定感と、他人や社会に対する最低限の信頼感という二つの条件が必要(雨宮処凛氏)。貧困は、たやすくこの二つを人から奪ってしまうため、適切な援助が必要だとした。
 軽症でも時間外に受診する「コンビニ受診」を生むなどを理由に、無料化反対の声がある。これまでは裏付けるデータがほとんどなかったが、群馬県が中学卒業まで無料化した以降の時間外受診患者数は減っているというデータなどがあることを示した。また、自己負担がないから不要な医療が行われるとしたら、問題ではあるが、経済的ハードルでそれを抑制しようとすると、貧困層だけを医療から遠ざけることになる。さまざまなデータや実例を示して共通認識を広げていくことによって、反対論者とも一致点を築いていけるとした。

問われる自治体の姿

 対談で尾藤弁護士は、日本は諸外国に比べ無償の医療は市民の権利だという意識が薄く、自己責任が強調される。自己負担の弊害が貧困層に偏っているのは国際的には常識となっており、子ども医療費の無料化は必要であり、生命と暮らしを担う自治体のあるべき姿が問われるとした。
 さらに、各分野からの報告で、兵庫県明石市が中学生までの医療費完全無料をはじめとした施策の充実により、子育て世代の転入と税収増につながっているという視察報告がされた。

事例① 中断を繰り返す喘息親子
 4子の母子家庭。継続治療が必要な喘息だが予約日に来ず、発作ごとに受診。何度説明してもその繰り返し。窓口負担が払えないために少々の発作でも我慢し、発作でかかると食費を切り詰めるなどしていた。職員が役所に付き添って、生活保護につなげた

事例② 「私だってわかっているのよ」
 担任保育士から受診をすすめられ、「わかりました」と言ったが、顔見知りの他の保育士に「受診しないといけないことはわかっているのよ。財布に1000円しかないの。これじゃあ病院にかかれないのよ」

亀岡市長が来年10月の拡充表明

 亀岡市の桂川市長が12月4日、通院の月200円負担を中学生まで拡大する方針を議会で明らかにした。同市の現制度は多子世帯以外の小中学生は月3000円までの負担がある。
 「府内2番目の低水準」(京都新聞)と報じられた亀岡市が拡充宣言をしたことにより、最も負担の重い京都市の行方が注目される。

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