続 記者の視点 88  PDF

読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
多様性を強みにするために

 人口4万人余りのうち18%が外国籍という群馬県大泉町を、機会あって訪れた。
 ポルトガル語の看板がそこらじゅうにある。各国料理の店が多く、ブラジルのスーパーもある。街を歩けば異国の顔にいくらでも出会う。
 日系2世・3世の就労在留が可能になった1990年以降、電機、自動車、食品などの工場労働者としてやってきた日系ブラジル人、ペルー人とその子孫が大部分だが、近年はネパール人も増えた。
 町は、ポルトガル語版の広報紙を発行する。多文化共生コミュニティーセンターで外国人の相談に乗る。町観光協会は「インターナショナル・タウン」として、各種の交流イベントを開いている。
 特段のトラブルは起きていないが、言葉の壁は残り、すべての小中学校で、授業についていけない子ども向けに日本語学級を設けている。
 日本の他の地域でもここ数年、国際化が急速に進んだ。来日観光客の増加に加え、コンビニにも外食店にもホテルにも、工場や農場にも、大勢の外国人が働いている。
 国際化は時代の当然の流れであり、基本的には好ましいことだと筆者は考える。
 均質性を求め、同調圧力の強い日本社会は生きづらい。社会を発展させる観点から見れば、もはや弱みである。
 様々なルーツと文化を持った人々が加わることは、多様性と個性を尊重する社会に変えていく力になりうる。
 大事なのは、異質性を持ちつつ、日本社会に溶け込んでもらうことだ。
 欧州や米国の移民問題を見ていると、社会に溶け込めずに排除・差別されること、孤立・貧困に追いやられることが、摩擦と対立を高め、治安の悪化にもつながる。
 したがって、日本語教育と社会制度についてのサポートが非常に重要だし、対等の人間として尊重すること、人権を保障することが、社会の分裂を防ぐために欠かせない。
 安倍政権は、人手不足を理由に外国人労働者の受け入れ拡大に突っ走っている。問題の多い技能実習生の制度を維持しつつ、将来の実質的な移民に道を開く内容で、長期的な視点が乏しく、受け入れ体制の整備も伴っていない。
 目先の労働力の確保策として外国人を扱うことは、人権上の問題を生み、社会のあつれきを増やすだろう。
 技能実習生のように外国人の低賃金、劣悪な労働条件を許していると、日本人の賃金や労働条件も低下する。
 やがて不況が来たら、何が起きるか。外国人が雇用の調整弁として追い返されるのか、日本人との間で雇用をめぐる争いが生まれるのか。
 現実には、出稼ぎ労働のつもりで日本に来た人々も生活者となる。外国人同士でも日本人との間でも、恋愛や結婚をして、子どももできる。
 将来を見据えれば、労働力ではなく、「移民」を受け入れて多様性を高める政策を構築すべきではなかろうか。
 大泉町で残念なのは、外国人住民の意見を行政に反映させる仕組みがないことだ。
 定住する外国人が増えていけば、被選挙権を含めた地方参政権も当然、前向きに考えないといけない。

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