丹後半島 心の原風景 第2話  PDF

辻 俊明(西陣)

宮津の四季折々

 京都から宮津まで特急「はしだて」で2時間。数年前まで弁当の車内販売があったが、今はなくなった。途中の福知山駅では、ホームで駅弁を売り歩く昔ながらのスタイルを見かけたが、新しい駅舎になってからはそれもなくなった。少し寂しい思いがする。
 宮津駅前の小さな食堂に夜10時頃行った時のこと、入ってすぐ中年女性が酒に酔ってうつ伏せで寝転がっているところに出くわした。足の踏み場に困りいささか驚いたが、他の客や店の人は全く気に留めていなかったので、おそらくここではいつもの出来事なのだろう。そのつもりで見ると、女性も慣れた様子で案外快適そうであった。普通は店の人に注意されると思うが、そうならないのだからある意味懐が深いといえる。こういう社会なら生き方の自由度が高く、気楽にやっていけそうな気がした。
 6月には、宮津から車で20分ほど山に入れば蛍に会える。弥栄町に流れる小川のほとりでは、午後7時半から9時頃に多く飛ぶ。駐車灯を点滅させると蛍が寄ってくる。周りには余計な明かりや音がなく、ほのかな光でも明るく感じる。
 悪天候の宮津の漁港も楽しい(写真1)。安全面に配慮する必要はあるが、岸壁に打ち寄せる波を間近で見て、そのあと少し離れた丘に登って見ての2本立て。通常では見られない大きなうねりが次々に押し寄せるのは壮観である。普段の青い海からは想像できないような灰色の海となる。太平洋側では、ここまで色が変わることはないだろう。徒然草に、「野分のあしたこそをかしけれ(嵐の翌日はまことにおもしろい)」とあるように、台風の翌朝の市街地はさっぱりとしてすがすがしい。
 宮津の降雪は12月の初旬に始まり3月いっぱい続く(写真2)。この間晴れることはない。日本海からの風が山脈にあたって雲が発生するからだ。一日中雪の日もあるが、そうでなくても1日1回必ず雪が降る。降り終わったあとの田舎道には新雪が積もり、そこを自動車で走ると気持ちがいい。国道のわだちを走るのとは一味違う感触を味わえる。フカフカの絨毯上をすべっている感覚である。夜には真っ白な雪道がヘッドライトに照らされ、滑走路みたいになる。また山道を行くと、木々の枝に積もった白い雪がヘッドライトの明かりに映し出され、フロントガラス一面にパノラマビューとなって現れる(写真3)。この迫力は液晶画面では決して味わえない。

(写真1)天候次第でいろいろな表情をみせる漁港
(写真2)雪景色が目にまぶしい
(写真3)夜の雪もまた見物

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