地域包括ケアを社会的孤立の防波堤に  PDF

 あの日、台風21号はものすごい暴風を伴い、家々の屋根瓦やアンテナを飛ばしながら京の町を走り去った。猛威を振るった台風だが、こんな事例を耳にした。あるお宅のテレビアンテナが隣の屋根に倒れかかった。謝罪すべく、午前10時ごろに隣宅に出向いたが、応答がなかった。その後、午後7時に電気屋がテレビアンテナの修理に来た際、倒れかかったアンテナを回収する必要があるので、再び隣宅に赴いたが、やはり応答がなかった。その際、屋内に電気が点いているのが分かり、敷地内にいつも使用されていた自転車も置いてあることが判明。心配になり、110番通報が行われた。
 現場に到着した署員が消防に通報し、レスキュー隊が自宅2階の無施錠の窓から屋内に入り確認したところ、1階居間で両手を上にあげたようにミイラ化している遺体を発見した。死亡推定は、2018年3月下旬ごろ、死因は不明で不詳の病死とされた。年齢は69歳で、2月まで宮大工の仕事をし、退職してからは年金生活だった。結婚歴もなく、兄は京丹後に在住。同僚が時々訪ねていたらしいが、施錠してあり応答もなかったため帰っていたらしい。彼は台風がなければ今も見つけ出されていなかったかもしれない。
 このような事例は珍しいケースなのだろうが、西京区では18年4月1日から8月31日までの5カ月間に51例の遺体を検案した。そのうち、孤独死は約半数であった。死後3日以内に発見された事例が半数あり、残りは3日以上10日以内であったが、中には1カ月以上の事例がみられた。発見者は介護関係のヘルパーやケアマネ、町内会組長、民生委員、マンション管理会社とさまざま。小学5年生が通学中の異臭を訴え発見された事例もあった。
 一方、在宅医療で1年間に17例の死亡を確認した。自宅での看取り例が12例で、病院での死亡が5例であった。12例のうち、サービス付き高齢者住宅での死亡が3例あった。
 人間は生きている以上、死は絶対的なもので、死なない人はいない。今後、ますます独居世帯が増加する傾向の中、脳出血や急性心不全などの突然死もできるだけ早く見つけられる社会構造を作らなければならない。地域包括ケアシステムが住民にうまく作動し、新たなコミュニティーが構築され、孤独死・原因不明死が少しでも減少するような社会が望まれる。

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