奈良県が地域別診療報酬打ち出す 「福祉増進よりも医療費抑制」の典型モデルか  PDF

 奈良県が国民健康保険制度の都道府県化を機に、高齢者の医療の確保に関する法律第14条に定められた(診療報酬の特例)の適用を打ち出した。奈良県の第3期医療費適正化計画は国の与えた推計ツール以上の医療費抑制を目標化し、その達成に届かない場合は診療報酬の特例を活用。単価(一点10円)を一律に引き下げることを含めた診療報酬上の対応により、「国民健康保険の保険料水準引き上げを回避できる水準にまで医療費水準を抑制していく」と述べている。これは、医療費適正化計画を中心に、国保都道府県化と地域医療構想による医療費管理を担わされた都道府県が、「住民の福祉の増進」よりも、医療費抑制を重視するようになっていく表れであり、まさに危惧されてきた事態の典型である。よって、奈良県の打ち出しは今後、すべての都道府県における医療政策の典型モデルとなりかねない危険を孕む。
 協会は、後期高齢者医療制度の根拠法である同法成立前からその危険性を指摘してきた。京都府は2009年1月27日、国民健康保険の一元化を提案し、効果的に健康医療政策を遂行するためとして、診療報酬の決定権限委譲を提案。協会はじめ医療関係者の批判が広がり、結果として当時府が設置していた研究会(あんしん医療研究会)報告書に同提案が書き込まれなかった経緯がある。
 だがそれ以降、国が進めてきた医療政策の展開(都道府県による保険財政と医療提供体制の一体的管理システムの構築)により、都道府県別診療報酬という「絵空ごと」にも思えた構想が差し迫った危機となりつつある。
 18年4月11日の財政制度審議会・財政制度分科会で「奈良モデル」が紹介され、5月23日に公表された「新たな財政健全化計画等に関する建議」は、「医療費の適正化に向けた地域別の診療報酬の設定等」の項を掲げ、「都道府県における医療費適正化計画の取組に資する実効的な手段を付与し、都道府県のガバナンスを強化する観点も踏まえ」、「第3期医療費適正化計画の達成に向けて速やかに活用できるようにしていかなければならない」と述べた。
 財務省はこの仕組みを重視し、どこかの都道府県がそれを積極的に活用し、仕組みはあっても活用不能と考えられてきた状況が突破されるのを期待しているものと考えられる。
 診療報酬の地域差を撤廃し、制限診療を撤廃し、不当な審査・疑義解釈を追放してきたのが、保険医運動の歴史であり、今も運動の核心テーマである。保険で良い医療と良い医業を成立させる日本の国民皆保険体制を根底から解体する地域別診療報酬の動きを、「奈良ローカル」の話題として軽視することはできない。
 奈良県で万が一、診療報酬の単価が引き下げられれば、医療機関の開業・就業、患者の受療動向にも大きく影響を与え、隣接県から隣接県へと、全国に都道府県別診療報酬が拡大する危険性がある。その時が、国民皆保険が保障してきた保険医療のナショナルミニマムの終焉となる。
 協会は、保団連近畿ブロック各協会とも共同し、まずは奈良県の動きを断念させる取組を進めていく。

近ブロが緊急声明
 保団連近畿ブロックは所属8協会の連名で、「地域医療の質を低下させ、医療を崩壊に導く『地域別診療報酬』の導入も、検討も断固反対する」とする緊急声明を6月19日に発表した。

ページの先頭へ