事実上の開業規制の第一歩 医療法等改定見直し求め要望提出  PDF

 協会は5月29日、衆議院で審議中の「医療法及び医師法の一部を改正する法律案」(2018年3月国会提出。参院可決)について、抜本見直しを求める要請書を衆議院議長・内閣総理大臣・厚生労働大臣宛に提出。京都選出の衆参国会議員にも送付し、理解を求めた。同法をめぐっては4月19日、協会は厚生労働省医政局と懇談し、問題点を指摘してきた。

 要請書では次の3点を求めた。①医療法及び医師法の一部を改正する法律案は抜本的に見直し、開業規制につながる部分はすべて削除すること②医療費抑制のための医師・医療機関数の管理政策は転換すること③日本のどの地域でも人々が安心して暮らせるよう、地域の再生を目指すこと―。要望理由として、次の点を指摘した。

開業規制に繋がりかねない改定条文

 医療法改正案第30条の4は、都道府県が医療計画において〈医師多数区域〉と〈医師少数区域〉を二次医療圏別に設定し、少数区域のみならず多数区域でも「確保すべき医師の数の目標」を定めることを可能にする。これは医師多数区域における医師の開業・就業が、当座は「自主的」に、将来は「強制的に」に制限されることにつながる。厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会中間取りまとめ」(16年6月3日)は、「2040年には医師供給が約4・1万人過剰」との推計結果を示し、医師数増政策の転換を示した上で、「都道府県が策定する医療計画において、医師数が不足する特定の診療科・地域等について、確保すべき医師数の目標値を設定し、専門医等の定員の調整を行えるようにする」こと、「将来的に、仮に医師の偏在等が続く場合には、十分ある診療科の診療所の開設については、保険医の配置・定数の設定や、自由開業・自由標榜の見直しを含めて検討する」ことを提起していた。これを踏まえれば、法案は事実上の開業規制への一歩と考えざるを得ない。

都道府県下の管理体制抑制高めるのみ

 2018年4月から、国民健康保険が都道府県化された。都道府県は「医療費適正化計画」に定めた事実上の「医療費支出目標」の達成を目指し、保険者として提供体制と財政の一体的管理を担うことになった。医療・社会保障費の抑制が国策として進められている状況では、都道府県を住民への医療保障ではなく、提供体制を絞り込み、保険財政を安定化させる立場へ自動的に変質させる。こうした政策が前提にあれば、法改正内容は都道府県による医療費管理・抑制の実効性をより高めるためのものにしかならない。

国の偏在是正は「医療費適正化」

 京都府は、人口対10万人医師数が全国一多いが、京都・乙訓圏域を除く二次医療圏はいずれも全国平均を下回る。京都乙訓であっても「へき地」は存在し、必要な標榜科の不足により、命が脅かされている地域がある。国の「経済財政再生計画」は、「医療費の地域差」半減を求めている。だが医師・医療機関偏在が問題なのはそれが住民の生命の格差を生むからに他ならず、経済効率性や医療費適正化など本質的問題ではない。国の偏在是正方針はその動機が間違っている。

人が暮らせる地域の実現を

 「医師多数区域」の医師数を制限しても「医師少数区域」の開業・就業が増えるわけではない。日本の医療保険制度の仕組みでは、産業が落ち込み、人口減少が進み、疲弊している地域では、いかに医療を必要とする人がそこにいても、医業が成り立たない。人口減少で医業の成り立たない地域で医師は開業できず、医師がいない地域ではさらに人口が減少する。
 高度経済成長以降の経済政策や構造改革の結果として、今日の地域の現実がある。これをもたらしたのは国自身の政策であり、医師や住民に何ら責任はない。
 国の仕事は開業・就業規制ではない。新自由主義改革による政治をやめ、地域の再生を目指すこと。そして医療・社会保障費抑制政策をあらためることだ。

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