富士山 関 浩(宇治久世)  PDF

第7回
「世界文化遺産」登録の意義

 ゴミだらけの富士山、山麓の現状に危機感を強めた野口健氏(2000年からヒマラヤ清掃登山を行った)らの提唱で富士山清掃が始まり、04年度から07年度の4年間で回収されたゴミは二百数十トン(1万8534人の参加者)にのぼり、13年度までに計64万トンのごみが富士山清掃で回収されている。
 トイレについても1997年ごろから改良を進め、06年にはほぼすべてのトイレが環境配慮型トイレ(非放流トイレ)となり、ごみ・トイレ問題の解決のめどは立っていた。富士山が「自然遺産」登録を目指すには右記以外に本質的な問題が横たわっていた。つまり富士山のようなコニーデ型火山(円錐形)の独立峰は世界に複数ある。富士山は成層火山であるが、とりたてて珍しいものとはいえず、自然の「顕著な普遍的価値」にはあたらない。原生自然が豊かに残されていることが不可欠であるのに人間の手によって改変されてしまっているなどの点から、このままでは困難であるという見解が専門家、行政より意見が寄せられた。
 それではと2005年4月より「文化遺産」登録にむけて転換する活動が積極的に繰り広げられるようになり、13年6月、9年間の努力が実を結び登録に至ったのである。
 しかし、現有の問題点、改善点の指摘とともに文化的景観としての管理、増加する来訪者の管理戦略策定、景観の神聖さおよび美しさの両側面を維持するための観察・指導の強化に対し一定期間後の見直しがなされるなど、厳しい「条件付き」登録であった。
 ほかにも問題点、つまり地元観光業者と自然保護団体の利害が一致しなかったからだ、ということもあげられる。
 もし「自然遺産」に登録されれば、登録された範囲の自然に手を加えることは厳しく禁止される。ゴルフ場や遊技場建設などはもってのほかで、道路建設も売店の出店もできないし、すでに盛んに行われている商業活動も制限を受けざるを得なくなる。河口湖、山中湖で見られるモーターボート、ジェットスキーなどの観光産業は? 代々、山小屋を営業し受け継いできた人々の権利は? それらの権利関係については行政も簡単に手を付けることは困難で、「自然遺産」登録はどだい無理であった。また、悲願の「文化遺産」に登録を果たしたものの、ユネスコの勧告、警告に反して改善の姿勢が見られない場合、登録を抹消されることもある。04年「ドレスデン・エルベ渓谷」は「文化遺産」に登録されたが、勧告に反して街の中心部に橋を架けたため、09年に削除された。そのほか、オマーンの「アラビアオリックスの保護区」は「自然遺産」登録後、石油資源開発を優先させたとして削除されている。
 しかし、このような経過があっても、私は、富士山が「文化遺産」である理由として、富士山という自然の営みに宗教性、芸術性を見出してきた日本人の自然観や文化観が国際的に認められたのだと信じたい。富士山の存在がもたらした文学や絵画や行事、歴史、信仰などに思いをいたせば富士は、まさに日本人の心のよりどころなのである。

バイオトイレ

 燃焼式トイレのほか、オガクズ(微生物が汚物処理をして有機質肥料に変える)を利用するバイオ式トイレ、かき殻を用い汚水をろ過するバイオ式による環境に優しい自己完結型のトイレがある。一基設備管理料は5000万円もかかる。そのためこれでまかなえるとは思えないがトイレ利用で100円から300円程度の協力金は必要である。山頂にも途中の山小屋にもトイレは完備されており、宿泊者(宿泊者は最初の1回の協力金でいいと言われる)の他、一般登山者に対しても開放されている。ただし使い終わった紙は必ず備え付けのゴミ箱に捨てる。現在、ゴミについても全くと言っていいほど目にはしない。山麓の青木ヶ原樹海のゴミ回収や不法投棄にも対策が取られている。
 以前、山小屋のトイレ脇の悪臭が耐え難いと言われたこともあったが、現在は全くない。しかし、燃焼式トイレか自家発電用なのか重油の排気ガス臭が強く漂う場所もあった。

出典:『富士山を汚すのは誰か』野口健(角川書店2008)、『世界遺産にされて富士山は泣いている』野口健(2014)

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