知っておきたい 医院のための雇用管理 9  PDF

社会保険労務士 桂 好志郎

パワハラ、増える申し立て

 「開業以来3年の勤務歴、50歳前の職員から、パワハラにより適応障害となり、勤務できなくなったため、年休の消化、離職理由を医院都合によるとすること、解決金として給料の3カ月分を求める文書が診断書とともに送付されてきた。解決金は今月末までに振り込むことを要求している。後輩職員への対応がきついので主任が注意したことがきっかけとのこと」。このような相談が増えてきています。どう考え、どう対応すべきか。

 ◇パワハラ被害 3人に1人 厚労省の調査では
 労働者と企業間のトラブルを裁判に持ち込まずに迅速に解決を目指す「個別労働紛争解決制度」に基づく2016年度の労働相談が約25万5千件。相談内容(図①)の内訳で、「いじめ・嫌がらせ」は民事上の個別労働紛争の相談件数では5年連続トップとなっています。
 厚生労働省はこうした事態を受けて、初のパワハラ実態調査を2012年7~9月に実施、民間企業に勤める人の4人に1人が職場でパワーハラスメントを受けた経験があることが分かりました。年代別では30代が27・2%で最多。内容では、大声で叱責するなどの「精神的な攻撃」が55・6%で最も多くなっています。加害者は「上司」が約8割を占めています。
 2016年度に行われたパワハラ実態調査でも過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した従業員は2012 年度実態調査の25・3%から32・5%に上昇しています。
 ◇厚労省は、パワハラの予防・解決に向けた提言を公表
 「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や、同僚間などのさまざまな優位性を背景に行われるものも含まれる)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為をいう」と定義した報告を行いました。「報告」では、裁判例等をもとに、典型的と思われる六つの行為類型を挙げました。
 ①身体的な攻撃:暴行・傷害
 ②精神的な攻撃:脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
 ③人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視
 ④過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
 ⑤過小な要求:業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
 ⑥個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること
 ④⑤⑥ついては、「業務の適正な範囲」の線引きが必ずしも容易でない場合があると考えられます。
 ◇業務改善、ミスした職員に注意することは必要なこと
 使用者の職員に対する業務命令権は、労働契約から当然生ずる権限です。職員は院長の適正な範囲の業務命令には従わなければならない義務はあります。
 職務上の関係にすぎない、院長と職員の人間関係が全人格的な上下関係とみなされて行う行為は間違いですが、職務の円滑な遂行上、指導を目的とした注意や叱責は業務の適正な範囲内である限り一定程度許されると解かれるし、それ自体が違法とはいえません。とりわけ、医療機関においては放置できないことが多々あります。
 職場のパワハラ・いじめ等に基づく損害賠償請求権が争点になった裁判において「原告の事務処理上のミスや事務の不手際は、いずれも、正確性を要請される医療機関においては見過ごせないものであり、…、一般に医療事故は単純ミスがその原因の大きな部分を占めることは顕著な事実であり、そのため、Aが、原告を責任ある常勤スタッフとして育てるため、単純ミスを繰り返す原告に対して、時には厳しい指摘・指導や物言いをしたことが窺われるが、それは生命・健康を預かる職場の管理職が医療現場において当然になすべき業務上の指示の範囲内にとどまるものであり、到底違法ということはできない」とした例もあります。
◇  ◇
 次号も引き続き同テーマで、違法性の判断基準や使用者の安全配慮義務について述べたいと思います。

図① 民事上の労働紛争相談の主な内訳

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