富士山 関 浩(宇治久世) 第6回 2013年 世界文化遺産に登録  PDF

 富士山は2013(平成25)年、富士山全域、河口湖などの富士五湖、三保の松原などを含む広い範囲(図)が「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」として「世界文化遺産」に登録された。当時、日本中に歓喜の声が巻き起こったことを覚えているが、ここに至るまで関係者の努力、紆余曲折があった。
 世界遺産注)には文化遺産、自然遺産、両者の特徴を併せ持つ複合遺産の3種類がある。自然遺産とは、優れた価値を持つ地形や生物、景観などを持つ地域であること。文化遺産とは優れた普遍的価値を持つ建築物や遺跡であること。複合遺産とは文化と自然の両方を兼ね備えるものであることといった規定がある。1994年から富士山を世界遺産に登録しようと活動していた自然保護団体は、自然物の造形である富士山を自然遺産にと考えていたが、その運動が挫折したのは03年で、文化庁は富士山を世界自然遺産の申請登録リストに掲載しないと決定した。
 その理由は富士山周辺はすでに観光開発などが行われ、人間の手によって大きく改変されており、自然の雄大さが損なわれてしまっている。またごみ問題と屎尿処理問題が片付かなくイコモスの審査が通らないからだというのがその理由だが、たしかに富士山および周辺での不法廃棄物やゴミ問題は、深刻だった。環境保全という考えが現在ほど浸透していなかった当時、登山中のゴミを持ち帰るという意識は薄く、それほどの罪悪感なくポイ捨ては行われていた。トイレについてもかつては浸透放流式の「垂れ流し(何十年か何百年かあとに湧き水に?)」だったため、屎尿は地中に、トイレットペーパーが白い川のように見えたという。日本の美しく誇るべき富士山の夏季登山道は、大量のゴミが放置され、悪臭漂う「汚い山」なのだった。外国人登山家からは「日本は、経済は一流だが、文化やマナーは三流だ」と非難された(エベレストでボンベを捨てる人間が言うか!)。

注)日本における世界文化遺産には法隆寺地域の仏教建築物、姫路城、古都京都の文化財、白川郷・五箇山の合掌造り集落、原爆ドーム、厳島神社、古都奈良の文化財、日光の社寺、琉球王国のグスクおよび関連遺産群、紀伊山地の霊場と参詣道、岩見銀山遺跡とその文化的景観、平泉―仏国土を表す考古学遺跡群、富岡製糸場と絹産業遺跡群、国立西洋美術館、「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺跡群、明治日本の産業革命遺産の計17件が登録されている。日本で自然遺産として登録されているのは知床、小笠原諸島、白神山地、屋久島の4件が登録されている。複合遺産の指定はない。

(写真1)富士講の登山者
(図)富士周辺
(写真2)秀麗な富士山

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