医師が選んだ医事紛争事例 73  PDF

反省点があっても過誤とは限らない
(20歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
 20歳の男性。40℃の発熱、悪寒があり市販の風邪薬を服用し、熱は37℃に下がった。4日後にまた40℃の熱、悪寒、関節痛が出たため、翌日午前に他医療機関を受診し、同日自力歩行困難により救急車で当該医療機関に搬入、入院となった。咽頭痛と38℃台の熱発があり急性上気道炎と診断し、輸液と抗生剤(ネオファーゲンC、ガスター、ホスミシン)を点滴し解熱剤(メチロン)を筋注した。その後PL顆粒、エパテック坐薬、セフメタゾンを増やし投与した。数日後には粘血便を認め、興奮状態となったため、セルシン、セレネース等を投与。翌日頭部CTを施行し異常は見られず、髄液検査も施行したが、髄液は無色透明で細胞数は正常、蛋白量は上昇していた。発熱および精神状態の原因特定が困難と考え、A医療機関に転院。転院後まもなく脳浮腫が強くなり、脳死状態となり死亡、A医療機関の診断はウイルス性脳炎であった。後日両親から死亡原因について説明を求められ、「A医療機関で診断されたようにウイルス性脳炎と考えており、当院で行ったCTや髄液検査では、まだウイルス性脳炎を疑う所見がなく急激に進行したと考える」と答えた。その後、患者遺族側は解熱剤多種類投与による急性脳炎・脳症の薬剤副作用死であったとして、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構へ救済給付を申請。患者遺族側が病院へ診断書を請求し、機構へ提出した。機構は申請を承認し、遺族一時金が給付された。
 また、患者遺族側は、解熱鎮痛剤、メチロン注、エパテック坐剤、PL顆粒により、脳炎・脳症を発症し死亡した。患者はアトピー性皮膚炎を患っており、解熱鎮痛剤は最小限にとどめるべきであった。興奮状態になったにもかかわらず、CT等の検査を行わず、急性脳症を見逃した、として訴訟を申し立てた。
 医療機関側は、メチロン注、エパテック坐剤、PL顆粒はそれぞれ、添付文書に従い使用限度内に止めた。すぐにCT等の検査を行わなかったのは事実であるが、CTと髄液検査を行った時点で脳症と診断できなかった。したがって早期に検査を行っても脳症と診断できなかった可能性があるとして、医療過誤はなかったと判断した。
 紛争発生から解決まで約7年10カ月間要した。
〈問題点〉
 解熱鎮痛剤、メチロン注、エパテック坐剤、PL顆粒により、脳炎・脳症を発症したとして、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構の申請が承認されており、A医療機関の診断であるウイルス性脳炎と食い違っている。脳炎・脳症が、薬剤の副作用によるものか、ウイルス性のものであるか、解剖を行っていないため不明であった。そのため調査機構の判断が正しいかどうかは判らないが、アレルギー性皮膚炎以外に既往症もなく年齢も若い当該患者が興奮状態となった段階で、脳へのダメージを考えるべきではなかったか。この段階で、脳炎等を考え、脳圧を下げる治療や投薬を行い、二次医療機関への転送を行っていれば、最悪の結果を回避できた可能性もあり、その点が残念であった。しかしながら、反省点があるからと言って、医療過誤であるとは断定できず、判断は裁判に持ち越される結果となった。
〈結果〉
 裁判は1・2審とも医療機関側の勝訴となり、患者側はそれを不服として最高裁に上告したが、最高裁は上告棄却として、医療機関側の勝訴に終わった。
 ※商品名の(r)マークは省略した。

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