なくならない注射による神経損傷 迅速な初期対応が肝腎  PDF

医療安全に対する意識と対策は医療界に広まっているが、なくならない事故の典型として、注射による神経損傷がある。
特に今年になって、協会に8件の注射による神経損傷の案件が持ち込まれている。こんなことは初めてだ。注射は医療行為の中で大きな地位を占めており、採血だけとっても国内で年間1億件以上行われているという。そして注射による神経損傷の頻度は約1万から10万回の穿刺に1回の頻度で起こるといわれる。
今まで我々が扱った注射による神経損傷の事故で、原因となった注射手技、刺入角30以下、深く刺さない、刺入後針先で血管を捜さないなどに問題があると認められたことはほとんどなく、無過失と判断されることが多い。明らかに医療行為で痛みや痺れが続く患者からすれば、無責の判断はなかなか納得できるものではなく、症状が続けば解決に難渋する。
このリスクを少しでも減らすために、我々は手技とともに穿刺血管の適切な選択が重要と考える。
そこである研究を基に、以下を述べる。太い静脈がある肘部より選択することが通常であるが内側と外側上顆を結ぶ線と直角に交わる線で肘を四等分すると、近位内側では内側前腕皮神経が尺側皮静脈、肘正中皮静脈尺側の浅層を走行することが多く、また遠位より神経も太く神経損傷の危険が最も高い区域である。近位外側、遠位内側では皮神経が皮静脈の浅層を走行することは稀である。ただし近位外側では橈側皮静脈の直下を比較的太い外側前腕皮神経が走っており、ここで皮静脈を貫通すると神経損傷を起こす可能性がある。加えて肘部内側では正中神経が上腕動脈内側を伴走している。
以上より、近位より遠位、内側より外側でより安全と考えられる。肘部で穿刺ができない場合、手首の橈側に太い血管が見られるが、ここは橈骨神経浅枝が網目状にまたがっており選択すべきではなく、手背の血管を考えるべきである。しかしどの血管を選択しても神経損傷の危険があることは忘れてはならない。注射による神経損傷は大概は2~3カ月で症状はなくなるものが多いが、時に長期化するものもあり、迅速な初期対応が肝腎である。
(「肘窩における皮静脈と皮神経の走行関係:静脈穿刺技術のための基礎研究」木森佳子ら著(金沢大学大学院医学系研究科)などを参照)

ページの先頭へ