医師が選んだ医事紛争事例 70 連載再開  PDF

患者の思い込みから医事紛争に
―― 毅然とした姿勢が肝要です

50歳代前半男性
〈事故の概要と経過〉
 耳下腺炎の疑いで初診。また、他院で鬱病の診療を受けていた経緯あり。それから4年後に外来で両上肢のだるさ症状、頚部痛症状が認められた。A医療機関で頚椎椎間板ヘルニアと診断された後、当該医療機関において、メバロチンR10㎎/日を処方。その後も投与は継続されていた。
 患者は、メバロチンRの副作用で横紋筋融解症になったとして、弁護士を介して証拠保全を申し立てた。
 医療機関としては、メバロチンRの副作用としての横紋筋融解症の発症確率は極めて小さく、その説明をしなかったのは事実であるが、説明義務違反には相当しないと考えるとともに、実際には横紋筋融解症は発症していない可能性が極めて高いとして医療過誤は全くないと主張した。また当時、CPKを測定していないことも事実であるが、横紋筋融解症が疑えない以上、検査する必要性はなかったとした。
 紛争発生から解決まで約1年3カ月間要した。
〈問題点〉
 その後の検査でCPKの値は239で問題はなく、その他の患者の症状から考えても、横紋筋融解症を発症しているとは考えられなかった。患者は鬱状態であり、極端に神経質になっているとのことで、根拠のない思い込みをしていると判断できる。したがって、そもそも横紋筋融解症ではないので、患者の主張は成立せず、医療過誤は認められない。時間の経過とともに、患者は医療機関への問責というよりも、医薬品副作用の救済制度に適用させるために、メバロチンRの副作用により横紋筋融解症になったと当該医師に証言させようとしたことが判明した。稀に、医師が患者の希望に沿った診断書を発行して、後に保険関係等でトラブルになることがある。当然ながら、患者の個人的都合や、それに対する医師の同情により診断書を作成するのではなく、医学的見地から作成しなければならないことは言うまでもない。
〈結果〉
 医療機関側の弁護士が、患者側弁護士に医学的説明をして納得を得た。

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