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2017年京都府内二酸化窒素 (NO2) 測定結果

環境対策委員会(京都府保険医協会 京都府歯科保険医協会)

実施日 2017年11月30日(木)~12月1日(金)午後6時からの24時間
発送数 1774(医科:1465、歯科:197、定点:112)
回収数 895(回収率 全体:50%、医科45%、歯科65%)

 大気中の物質がもたらす環境への影響については大きく分けて、健康影響、生態影響、気候影響の三つがあります。大気汚染が起きてしまうと、人間や環境にさまざまな悪影響を与えてしまいます。京都府保険医協会環境対策委員会では大気汚染の一つである二酸化窒素(NO2)測定を2001年以来これまで15回続けてきました。呼びかけに応じていただいた会員の皆様による京都府内二酸化窒素大気汚染調査へのご協力に心より感謝申し上げます。
 これまでの調査結果からは、京都市内、京都市以外の府内でNO2による大気汚染は引き続き減少傾向にありますが、汚染が少なかった京都府北部や京都市周辺にも汚染が拡散され、平均化されつつあります。ものが燃焼すれば窒素酸化物も二酸化炭素(CO2)も発生します。CO2は地球温暖化に大きく関与しています。大気中のNO2濃度はCO2濃度と正の相関関係にあるとされています。地球温暖化防止のため、15年12月12日COP21で米国、中国を含む196カ国・地域すべてが参加する「パリ協定」が締結され、国際ルールがスタートしました。しかし、世界で2番目にCO2排出の多い米国は、17年6月にトランプ大統領が離脱を表明し、CO2削減による地球温暖化防止を試みる人々の足を引っ張っています。

測定方法

 今年度も、京都府保険医協会会員のここ数回の調査にNO2測定にご協力をいただいた方を対象に、プラスチックカプセル(天谷式NO2簡易測定カプセル)を郵送させていただきました。このカプセルを原則、会員医療機関玄関先あるいは近辺道路の、地上から1・5mの高さに粘着テープで取り付け、24時間大気にさらした後回収、協会へ返送していただきました。

測定は大気汚染全国
一斉測定日に合わせて

 まずは、お忙しい中、カプセル取り付け作業でご迷惑をおかけしましたことを、お詫び申し上げます。測定は大気汚染全国一斉測定日(年2回6月と12月の第1木~金曜日)にあわせた17年11月30日(木)原則午後6時から12月1日(金)午後6時までの24時間で、30日は南部・北部とも曇、最高温度は16・3℃。1日は、南部は晴れ、最高気温11・8℃で、北部は曇、最高温度は9・1℃でした。大気中のNO2濃度は天候や空間・地形に依存し、晴れ、無風の日には測定値は比較的高く、雨や風の強い日には低く出ます。また狭まった空間や地形(特に盆地)ほど拡散されにくいため高い値が、広い空間ほど低い値が出ます。したがって、当日の天候からは低めの値が予想されます。

測定基準

 測定基準は例年通り、国の定めた環境基準(1978年)41~60ppbに準じて、20ppb以下を“きれい”、21~40ppbを“少し汚れている”、41~60ppbを“汚れている”、60ppb以上を“大変汚れている”と分類しました。なお、京都市は当面の環境保全基準を40ppb(1986年以前は20ppb)以下としています。

測定結果

 2017年度NO2測定データ集計一覧は表1に示します。
 京都市内の各区の「平均値」は、高い順に、下京区が21ppb、次いで東山区・伏見区20ppb、中京区・山科区19ppb、南区18ppb、左京区・右京区・西京区16ppb、上京区15ppb、北区14ppbとなっています。下京区だけが“少し汚れている”に入っていて、後の区は“きれい”です。
 京都市以外の府内では、久世郡25ppb、城陽市・八幡市23ppb、京田辺市21ppb、宇治市19ppb、木津川市18ppb、向日市17ppb、乙訓郡・亀岡市16ppb、長岡京市・綴喜郡・相楽郡・綾部市・舞鶴市15ppb、南丹市・福知山市13ppb、宮津市12ppb、船井郡11ppb、京丹後市9ppb、与謝郡8ppbとなっています。“少し汚れている”地域は久世郡・城陽市・八幡市・京田辺市の4地域で、いずれも京都府南部の地域です。他の地域は“きれい”です。
 ワースト10は表2に示しました。今回61ppb以上の“大変汚れている”地点はありませんでしたが、“汚れている”は3カ所見られました。今回最も“きれい”な8ppbの地点は36カ所ありました。
 過去15回、16年間のNO2濃度平均値年次推移経過を見ますと、測定し始めの頃と比較し、NO2濃度は高い地域と低い地域の差が縮まり、大気汚染が府内全般に及んでいることを伺わせます(表3)。
 会員以外の測定点は、阪神高速道路8号京都線(「京都高速道路」)につながる十条通付近、京都市内で最も汚染の強い横大路付近、京都府保険医協会近くの四条烏丸交差点付近です。横大路では40ppbを超える“汚れている”地点が2カ所みられます(図1)。

考察 NO2について

 NO2は、石油などの燃料や空気中の窒素が酸素とともに燃焼する結果、生成されます。この燃焼過程では、NOが生成され、その後大気中でNO2となります。発生源としては工場・事業所で使うボイラーなどの固定発生源と自動車・船舶・飛行機などの移動発生源があります。人が安全に暮らすことのできる環境基準は前述の1日平均値が20~40ppb範囲内、それ以下です。
 日本の場合、大気中のNO2の約30%はクルマの排ガス由来のものであり、NO2の人体への影響は、吸入したNO2の濃度と吸入時間に依存します。高濃度の場合、吸入直後は無症状ですが、数時間後に咳嗽、発熱などの症状が始まり、急速に肺水腫へと進行します。また、数週間の潜伏期を経て、繊維性閉塞性細気管支炎を発症する可能性があります。また、低濃度で長期暴露の場合、NO2濃度と喘息の発症率は相関関係にあり、NO2自体は無機化合物のため喘息の抗原物質とはなりにくいですが、気道の線毛を脱落させ、アレルゲン作用を増強させます。また、Tリンパ球やBリンパ球の増強に関係し、いったん患った喘息をさらに悪化させます。

PM2・5ならびにDEP

 クルマの排ガスには、さらにPM2・5であるディーゼル排ガス微粒子(DEP)が含まれています。DEP濃度はNO2濃度と相関します。DEPは人間が呼吸を通して微粒子を吸い込むと、鼻、咽喉、気管、気管支、肺など呼吸器に沈着することで健康への影響を引き起こします。粒子径が小さいほど肺の奥まで達する可能性が高く、DEPを吸い込めば肺の奥深く、血管にまで入り込み、喘息、気管支炎、肺がん、花粉症、心疾患などを発症させ、死亡リスクを高めるとされています。
 PM2・5については、環境省は2000年9月、年平均(長期基準)で1m3あたり15μg以下、日平均(短期基準)で同35μg以下という環境基準を決めています。日本のPM2・5濃度に関しては、ここ数年広域的に季節により環境基準を超える濃度が一時的に観測されましたが、大陸からの越境汚染と都市汚染の影響が複合しています。中国からの越境汚染の割合は、九州、中国、四国地方で約60%、大阪・兵庫など近畿地方で約50%、首都圏で約40%となっています。国内発生は関東地方が最も多いとされています。

京都のまちの危機

 今回のNO2測定値はここ数年と比べると、前回と同様低い値が出ています。09年のリーマンショック以来、交通量の減少、クルマ離れやクルマの燃費向上・排気ガス対策が進み、さらに電気自動車も登場し、環境省のデータでも大気中のNO2も減少傾向を示しています(表4)。
 このところ京都市、京都府内でも観光客が目立って増えてきています。自家用車、観光バスで京都を訪れる観光客も多く、16年京都市を訪れた観光客数5522万人(前年比2・8%減)、京都市以外で3219万人(前年比5・1%増)でした。外国人観光客が増えたかわりに国内観光客が減っています。京都府環境政策課では京都市以外の観光客数が増えたのは、京都府縦貫道が全線開通した効果が大きいとしたうえで、観光客が京都市内の混雑を避け、市外に流れ始めたのではないかとしています。京都市では観光客が増えすぎて、街並みが一変し、京都の良さが消失、交通混乱やトラブルが多発しています。嵐山、清水寺など数カ所に観光客が集中し、大型キャリーバッグをひいた外人観光客がバスの車内通路をふさぎ、乗客の混雑で近隣住民や通勤客が通常時間帯に乗れない事態も発生しています。
 また、ホテル、民泊の建設ラッシュと地価の上昇で、住民が住めなくなってきています。伏見稲荷大社の参道付近は全国1位の地価上昇になっており、清水寺の六原学区では、15坪しかない狭小地の建売住宅が6000万円もしています。住民には固定資産税の増税ではね返ってきます。
 政府の「成長戦略」にしたがって京都府・市はインバウンドと称する訪日外国人観光客を積極的に呼び込み、「文化・観光国際戦略総合特区」を掲げ、規制緩和でホテル・民泊の建設を推進しています。観光とは、観光に訪れた人が喜び、感動し、人的交流を通じて地域社会が豊かになることが求められているにもかかわらず、観光を商品化し、成長戦略の一環として大企業、旅行代理業者、不動産業者などに儲けさせる「まち壊し」観光政策はやめるべきです。美しい街並み、歴史的建造物・遺跡、景観を守るとともにホテル・民泊の規制、マイカー観光を減らすなど、住民が住み続けられる街、未来を見据えた環境・交通・観光政策を総合的に作り上げることが重要です。

地球温暖化をとめるために

 大気中のNO2濃度とCO2濃度とは正の相関関係があるとされています。日本のCO2排出内訳をみますと、「運輸部門」はCO2排出の15~20%を占め、その9割弱が自動車によるものです。ガソリン1Lに対し2・3㎏のCO2を排出します。これまでに自動車の功罪については、何度も論じてきました。20世紀に始まった「クルマ社会」を見直す時期がきています。
 2017年の世界気温は観測史上2番目の高さでした。米航空宇宙局(NASA)は、「地球の気温は急激な温暖化傾向をたどっている」と警告しました。世界各地で異常気象が発生し、干ばつ、山火事、暴風雨、竜巻、氷河の消滅などが起こっています。異常気象の原因は、産業革命以後の地球温暖化がもたらしたものと、国連の「気候変動に関する政府間パネル」は指摘しています。
 15年12月、パリで国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、12月21日、地球温暖化を食い止めるためには不十分ながら、産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑え、1・5度未満になるよう努力する「パリ協定」を決めました。
 条約に加盟する全196カ国・地域が自主的に削減目標を作成し、国連に提出、対策をとり、5年ごとに見直すことを義務づけています。17年ドイツのボンで開かれたCOP23では、後ろ向きの姿勢として、トランプ米大統領のパリ協定離脱宣言に「大化石賞」が、世界第5位の排出国である日本政府は「脱石炭」の流れに逆行しているとして「化石賞」に選ばれました。ドイツ・フランスなどのEU、英国、北欧諸国、米カリフォルニアなどの州が再生可能エネルギーに舵を切る中、日本は「長期エネルギー需給見直し」として、電力を石炭火力発電に26%、原子力に20~22%を求めています。危険な原発の再開、CO2排出の多い石炭火力発電増設をはかるエネルギー政策からの根本的な転換が必要です。
 温室効果ガスには、長寿命温室効果ガスとして、最も濃度の高い二酸化炭素(CO2)をはじめ、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フッ素化合物などがあり、これらは数年以上の寿命で大気中に長くとどまります。温暖化の寄与度はそれぞれ63%、18%、6%、13%となっています。CO2の削減をしないことには、本質的な温暖化防止にはならないことがわかります。
 最近、温室効果を持つ大気汚染物質は、短寿命気候汚染物質(Short-Lived Climate Pollutants:SLCPs)と呼ばれ、具体的にはブラックカーボン(すす、黒色炭素エアロゾルとも呼ばれる)、対流圏オゾン、メタン、一部の代替フロン類など大気中寿命が短い物質が中心です。これらSLCPsを全て足し合わせた温室効果はCO2に匹敵します。近未来(2030~50年)の温暖化を抑制するとともに、北極やヒマラヤなどの氷床・氷河が溶けてしまう地域的被害を少なくするためにはSLCPsの削減が有効である。また、将来の温暖化を2℃以内に抑制するためにも、長期的なCO2削減に加えてSLCPsの削減を行うことが効果的であるとの新しい知見(Shindellら)が発表されました。それにはブラックカーボン(発生源として森林火災や都市汚染などいずれかの燃焼起源から発生)とメタンの規制が即効的であるとされています。

おわりに

 これまで15回にわたって、京都府内の会員の皆様のお力をお借りして、NO2測定大気汚染調査を行ってきました。17年の結果からは、大気汚染は減少傾向にあるものの、府・市内で平均化し、びまん性に拡散しています。
 地球温暖化は差し迫った課題です。2050年は遠い未来のように思えますが、筆者は生きていれば100歳を超えており、子どもたちは後期高齢者、今年生まれる子どもは32歳です。そのころ日本では、1m近く海面が上昇、本州は亜熱帯化、農産物は北上、マラリアやデング熱などの熱帯感染症が流行、異常気象の多発、水不足などで貧富の格差拡大、政情不安定となっているのでしょうか。意外と間近です。そこでは、現在を生きている私たちの責任が問われています。
 近代文明は、科学・技術の進歩とヒト・モノ・カネのグローバル化で地球資源を開発、採取し、作り変えることで物質的豊かさを追求してきました。その結果、ヒトは核兵器と近代兵器で大量の殺人と難民を生み出し、欲望の産業と技術で自然環境を破壊、地球資源の枯渇、生物多様性の消失、地球温暖化などの災厄を招きました。
 私たちは次世代へ持続可能な地球環境を残さねばなりませんが、地球温暖化は現状では進行形でしかありません。進行を食い止めるために、3・11を経験した今、化石燃料、原発に頼らない生活や社会が求められています。
 これまでのご協力にあらためて謝意を表しますとともに、今後の測定にもご協力をお願い申し上げます。

参考文献
 『都市大気中の二酸化炭素濃度について―二酸化炭素濃度と窒素酸化物濃度等との関連性について』立野英嗣ら著(札幌市衛研年報24)/『PM2・5、危惧される健康への影響』嵯峨井勝著(ほんの泉社、2014)/『短期寿命気候汚染物質(Short-Lived Climate Pollutants:SLCPs)』永島達也著(国立環境研究所ニュース31巻)/『再生可能エネルギーで拓く未来と抑える被害』佐川清隆著(病体生理Vol. 51)/『環境による健康リスク』車谷典夫監修(日本医師会雑誌第146巻・特別号)

表1 2017年度NO2測定データ集計一覧 ※白抜き文字は、京都市基準超(41ppb以上)、空白は、該当サンプルなし

表2 ワースト10(「家の中」は除く)

表3 NO2 濃度平均値年次推移

図1 二酸化窒素(No2)測定カプセル設置場所(横大路学区内)

表4 二酸化窒素(NO2)濃度の年平均値の推移 環境省・2012年2月24日報道発表

満員の市バスに乗り込む観光客(八坂神社石段下停留所)
旗を立てて、観光するアジア系外国観光客(祇園にて)
地価が高騰している東山区清水周辺
ホテル建設ラッシュで住民追い出しが始まっている京都駅南側・東九条

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