地域医療をきく! 3 綾部編  PDF

キャリア形成のためにも地域に関心を

 地域の医療現場で抱える課題や実情を聞こうと、開始した「地域医療をきく!」。第3回は、綾部市立病院院長の鴻巣寛医師を訪問した。

医師の働き方改革 実態に即した議論を

――現在、各医療圏で地域医療構想調整会議が設置され、京都府の医療計画がまとめられましたが、どう受け止めておられますか。
 鴻巣 今、医師の働き方改革が大きくクローズアップされていますが、医師不足と地域の偏在、診療科偏在の解消をせずに労働時間の上限規制を設ければ、地域医療は大混乱に陥るでしょう。それはどこの地域でも同じだと思います。
 今度、府医師会では働き方改革について、シンポジウムと講演会を行う予定になっています。しかし、医師という職業の特殊性や応召義務との整合性を考えると、解決すべき課題は山積しています。
 2月初旬の京都新聞で当院の36協定の残業容認90時間が注目されました。過重労働は改善すべきですが、かといって医療現場では目の前に患者さんがいれば受け入れざるを得ません。このギャップをどうすべきか。また、残業時間も診療科によって偏在が起こっています。特に時間外労働が多いのは、外科、整形外科、小児科、産婦人科、救急診療などです。これらの診療科を縮小すれば、協定範囲内の労働時間となるでしょう。しかし、地域医療は守れません。
 この問題は、医師が中心となってどうしていくべきかを考えないといけない。経営母体の違いや、役職などの立場の違いによってさまざまな意見があり、すぐにコンセンサスが得られるとは思いませんが、さまざまな課題をしっかりと整理し、議論を積み重ねていく必要があります。

――中津川市では2・4億円の時間外手当の追加支払い、聖路加病院では6月から土曜外来縮小を発表したとの報道が出ています。
 鴻巣 救急や時間外診療に伴う手当が増えると、診療報酬が上がらない限り、病院の経営上は大変厳しい状況になると思います。主治医になれば、例えば手術の翌日に患者さんの容態が変われば様子を見に行きます。当院では、その日が出勤日でなければ、時間外手当をつけています。これに対して診療報酬上の担保がありません。働き方改革でも診療報酬でも実態に即した議論を求めたいです。

地域医療構想で課題解決策を期待

――中丹医療圏の地域医療構想を見ていると、全国平均でも府の平均でも人口10万人対で医師数ははるかに少ない。そういった中で、いわゆる5疾病5事業と在宅ではいずれも綾部市立病院は基幹となる役割を担っておられます。
 鴻巣 中丹医療構想の5疾病5事業で具体的にどういう対策を講じていくのか。これから踏み込んでいくのだろうと期待しています。地域医療構想において、京都府では幸いにも病床数の変動はほとんどありませんでした。これは、それぞれの病院が工夫する中で自主的に取り組んでいるということの表れでもあり、また府もそれを認めたということで評価すべきでしょう。しかし、ここで終わってもらっては困ります。医療計画には5疾病5事業についてさまざまな課題を並べています。例えば周産期なら母体搬送の受入れ先は指定されていますが、実際には、産婦人科医不足により診療体制が十分とは言えません。また綾部市に脳神経外科の医師が不在であり、隣の医療機関へ搬送する必要があります。したがって、それぞれの病院と連携を図りながら患者の受け入れを行っているのが現状です。ネックになるのは、距離です。綾部市だけでも面積は広い。これが中丹医療圏となると本当に広大です。救急の場合は、時間との競争ですので、こうした課題にどう対応していくのか、大きな問題です。
 また、医療計画は2次医療圏ごとに作成されますが、生活は2次医療圏で完結されるものではありません。前回の座談会(本紙3008号掲載)でもお話したように、綾部市東部、上林地区からドクターヘリで公立豊岡病院に搬送されることもあります。当院にもヘリポートは設置されており、ほとんどが上林地区からの患者さんです。
 中丹医療構想調整会議はまだこれからも続くので、5疾病5事業の各論をさらに掘り下げて、より具体的な課題とそれに応じた解決策の構築を少しずつでも前進させる必要がありますね。
 地域包括ケアはさらに狭い範囲となりますが、綾部でいえば市立病院、綾部協立病院、綾部ルネス病院とある程度の役割分担はできていますし、在宅医療の問題も病診連携は図れていると思います。それぞれ顔の見える関係をつくるのが大切ですね。会合や学習会を通じて他職種や市長を含め、行政とも関係を構築しているのですが、これは綾部医師会をはじめ、それぞれの組織の規模が小さいからこそ可能であるのかもしれません。

頭悩ます医師確保問題

――医師確保についてはどうお考えですか。
 鴻巣 医師確保の問題は本当に難しいですね。綾部市立病院はほぼ京都府立医科大学からの派遣によってカバーしています。それこそ医師の長時間労働などの客観的なデータから、どれだけの人材が不足しているなどを指標化してもらえるとありがたいのですが。

――今回の医療法改正案では医師多数地域、医師少数地域を指標化し、各地域に当てはめていく。そのうえで、その地域に各都道府県が医師を確保する計画を作成するという内容が盛り込まれています。医師不足地域が目に見えるかたちで指標化されること自体は大事だということですね。
 鴻巣 京都府地域医療支援センター(KMCC)が行政として人材確保を担っていくのが本来の姿であろうと思うのですが、そこにお願いすれば解決という単純なものではありません。また新専門医制度についても、症例数や指導医数の多い都市部の研修病院に若手医師が集中する傾向があります。地域に来てくれる若手医師は少なく、地域の方との交流や印象に残る貴重な実習体験など、何かしらの馴染みがないと来てくれません。当院は新専門医制度の関連施設です。地域医療の研修等で来てもらい、少しでも地域と縁を結んでもらえたら大変ありがたく思っています。また、医学生と看護学生の臨床実習も積極的に受け入れていますが、その体験を通して少しでも綾部を知ってほしいです。

――協会はずっと自由開業制が大事だという姿勢で発言をしておりますが、一方で府北部、南部の医師不足にどう対応していくのか。まだ答えが出ていない状況です。医師の適正配置について、先生はどうお考えですか。
 鴻巣 地域になればなるほど、公的施設が多くなります。それは経営を考えればやむをえないですよね。実際、北部でも民間で頑張っている病院がありますが、数が足りません。例えば「地域度」みたいな物差しを作り、厳しい地域になればなるほど支援の度合いを増やすなどを検討してほしいと思います。その「地域度」をどう作るかがまた議論になりますが(笑)。
 また、医師不足地域で一定期間勤務した医師を「社会貢献医」として厚労省が認定し、厚生労働省令で定める病院の管理者として評価するという制度ができるらしいです。これはこれで一つの方法と思いますが、即効性は薄いでしょうね。
 今、困っている病院としては、研修医がそのまま残り、例えば3~4年後に大学に戻るといった形が一番ありがたいのですが。

――逆に新専門医制度では基幹施設や関連施設を回るので、何年もひとつの病院というわけにはいかなくなりますね。
 鴻巣 それと診療科によって差がでますよね。内科、外科系が人気だと聞いています。そこに研修医が集中するのであれば、定数制もやむをえないのではないかと考えています。
 特に産婦人科は医療水準が上がり、患者さんにそういった医療を求められる一方、安全も確保しなければいけない。人が少ないと、とてもじゃないがやっていけないということで、産婦人科を目指す医師が減っていくという悪循環に陥っています。

認定看護師活用視野に人材確保目指す

――今、国が議論しているのは人を増やすということよりもタスク・シフティング(業務移管)などで特に看護師を活用するということですが。
 鴻巣 当院では、ひとつの職種として認定看護師を活用していきたいと考えています。現在、看護師数は200人ほどですが、認定看護師数が徐々に増えてきています。専門的な活動を担ってもらっていることを考えるとやはり助かります。現実問題として人材確保が難しい以上は、こうした看護師との業務分担も視野に考えないといけません。
 ここも診療報酬上で、もっと評価してほしいです。認定看護師になるための学費などは、当院では全額病院が負担していて、そのかわり、しばらくは当院で頑張ってほしいとお願いしています。今のところ、全員在籍中です(笑)。
 当直は内科と外科が中心に担当していますが、副院長まで担当しており、していないのは私だけ。高齢化していますので、「大変だ」と言われます(笑)。当直の翌日は休日扱いにし、仕事をすれば時間外で手当をつけています。ですので、体力的に辛いけれども、翌日の仕事には手当がつくというところで我慢してもらっています。診療報酬でも、当直翌日を休日にすることで加算がついたかと思いますが、それができるのはスタッフの多い大病院だけではないでしょうか。本当に困っている地域、あるいは中小の病院にはハードルが高く、点数がつけられない。こうしたことも見直しをお願いしたい。
 最後に、地域であっても質の高い医療を提供するために、それぞれの病院が努力しています。若い医師には、都市だけでなく、地域にも関心をもってほしい。地域でしか体験できないこともありますので、キャリア形成の幅を広げるためにも地域にも目を向けてほしいと訴えたいです。

――本日はありがとうございました。

綾部市立病院 院長
鴻巣 寛 氏
専門領域:消化器外科、肝胆膵外科
資格:日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、京都府立医科大学消化器外科学臨床教授

略  歴
昭和52年3月 京都府立医科大学 卒業
昭和52年5月 京都府立医科大学 第2外科 研修医
昭和54年4月 近江八幡市民病院 外科 医員
昭和57年4月 京都府立医科大学 第2外科 修練医
昭和59年8月 京都府立与謝の海病院 外科 医員
昭和62年1月 京都府立医科大学 第2外科 助手
平成2年8月 綾部市立病院 外科医長
平成2年12月   同   診療部長
平成13年4月   同   副院長
平成21年4月   同   院長

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