産婦人科診療内容向上会レポート  PDF

 講演は、甲状腺の部位や疾患の大まかな分類(機能と形態の異常)や甲状腺疾患の統計上の頻度、更年期と紛らわしい自覚症状、機能異常の診断(FreeT4とTSHの測定)、甲状腺中毒症がバセドウ病とは限らないこと、橋本病が必ずしも治療を必要としないことなどの基礎的知識の確認に始まり、妊娠可能年齢女性の甲状腺の管理から妊娠中・授乳中の診断・治療・管理や胎児への影響などについて詳しく説明いただいた。
 妊娠中の甲状腺機能の評価はTSHを指標とし、その基準値は3半期ごとに設定される。不妊女性に潜在性甲状腺機能低下症の頻度が高く、特にTPO抗体陽性例には25~50μg量のLT4治療により、TSHを第1三半期の上限(2・5~3・5μ㍑/ml)以下にすることが推奨される。また、抗体が陰性であっても、妊娠経過中の甲状腺機能異常がさまざまな妊娠合併症を引き起こすため、適切な管理下でより安全な妊娠・出産が可能になる。アイソトープ治療は治療後4~6カ月の避妊期間が必要であるが、妊娠希望女性にとっても安全な治療である。治療前には1~2週間のヨウ素制限が必要であり治療によって一時的に血中甲状腺ホルモンが上昇することがあるのでできれば事前に甲状腺機能をコントロールしておくほうが安全である。妊娠中のバセドウ病の治療は、将来的にバセドウ病になる可能性が5~10倍高い胎児にとって非常に有益である。産後バセドウ病はリバウンドし、メルカゾール1日2~4錠、プロパジール1日6~9錠なら授乳も可能である。など、臨床現場で非常に役立つ内容をわかりやすくご講演いただいた。
 甲状腺疾患は女性に多く、厚労省2014年度患者調査では女性は男性の5・3倍である。
 甲状腺ホルモンは、妊娠の成立・維持、胎児の発育・発達に重要な役割を担うと同時に妊娠中の母体の甲状腺機能は生理的にも大きく変化する。また、胎児を含め出産後の経過にも影響するため、適切な管理が合併症リスクの軽減のために必要であり、そのためにも十分な甲状腺の基礎知識からその影響や治療への理解が必要である。
 以上、妊娠可能年齢の女性の診療に携わる機会の多い我々産婦人科医にとって臨床現場における実践的な知識を得ることができた、非常に有意義な時間をすごさせていただいた。
(右京・河野 洋子)

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