よりよい感染症対策・診断・治療を!  PDF

 感染症対策問題にかかわる医療安全の向上に、協会は、医療安全対策部を中心に議論を深め、より有効な感染症対策への提言・報知を行うべく努めている。
 感染症の発症には、Host-parasite relationshipの3条件、①病原微生物が②感染経路を経て伝播し③感受性のある宿主に感染することを要する。医療経過での感染経路には、院内での飛沫感染や処置時の接触・接種感染が代表的で、日常臨床では、特に後者を含む医療処置が問題となる。そこで、日常臨床上で汎用される注射・注入処置・手術などやその後の併発症に関連する代表的な裁判事例を検討し、裁判所の事実認定と判断過程から、感染症発症等の責任の所在や再発防止に資する注意義務のあり方などを分析し、日常診療等での留意点を抽出して、会員に報知する。
 事例的には、1949年9月28日28歳男Xが、Y医師に心臓脚気と診断され、VitB1剤の皮下注射治療を開始され、数回目に、右上腕の注射部に発赤腫脹・化膿を来し、Yに往診を求めたが応じず切開排膿も成功せず、他院で切開され排膿して漸次回復したが、右上肢の運動障害を後遺し、重労働が不能で翌50年3月28日解雇された。Xは、看護師から渡された未消毒の注射器で注射して化膿を生じさせたY医師の過失を根拠に金50万円の損害賠償を求め提訴した。札幌地裁は、金5万円の支払いをYに命じた。
 Yは控訴し、裁判所は、(1)注射液の不良か、(2)注射器の消毒の不完全かのYの過誤による発症と推認し、往診に応じず病勢を進行させたとして、5万円の支払いを維持して控訴棄却した(札幌高判昭和29・12・9)。
 最高裁は、(1)または(2)のいずれかの過誤を認め、高裁の判断を支持して上告を棄却した(最二小判昭和32・5・10)。
 アンプル内注射液の不良まで医師の責任とできるか、過失認定にいずれかでの発症との推認で十分かの疑問が残る。
 第32回保団連医療研究フォーラム10月8日(土)~9日(日)名古屋市においても「裁判事例から学ぶ感染症での医療安全対策・注射処置を中心に」を京都協会から報告の予定であり、他の演題を含め、関心ある京都協会会員には是非のご参集をお勧めする。
 協会はすでに、裁判事例に学ぶ医事紛争の防止⑰「患者・医療従事者間での感染防御の対策を」(本紙2875号、2013年11月20日発行)等を報知したが、各科専門医には、医療安全、医療倫理のみならず感染症対策についての細分化された知識・技能・態度が求められており(日本専門医機構『専門医制度新整備指針』2016年12月)、次号よりさらに、関連訴訟事例を検討して連載の予定であり、是非ご講読下さい。

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