医師が選んだ医事紛争事例 68  PDF

院内の廊下は中央を歩きましょう

(80歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者が義理の娘と生理検査室へ向かって、通路壁寄りを歩行中に、階段と廊下の交差所で、臨床検査技師と出会い頭に衝突。2~3m後退りした後に転倒した。CT検査の結果、右大腿骨頚部骨折と診断された。医療機関に整形外科がないため別のA医療機関へ転院搬送。右大腿骨人工骨頭置換術(セメント入り)が施行された。患者は退院して同日特養に入所し、その2日後、そこでも再度転倒して硬膜外血腫と診断された。
 患者側の希望は、歩行可能な状態に戻してほしいということで、明確な賠償請求は行わなかった。
 医療機関側としては、患者と衝突したのが見舞客等と違い、医療機関の職員であったことから、賠償責任が全くないとは断言できないとした。また、臨床検査技師は過去にも、複数回にわたり衝突事故を経験していたとのことだった。なお、再発防止のため、今後は衝突の可能性の高い場所にはミラーを設置して、職員に対しては基本的に廊下の端ではなく、中央を歩くように指導するとのことであった。
 紛争発生から解決まで約1カ月間を要した。
〈問題点〉
 医療機関内には高齢者が多いことを臨床検査技師はもっと自覚すべきであっただろう。また、臨床検査技師は複数回にわたり他者と衝突を起こしていることも問題視される。しかしながら、全面的に医療機関側の不注意とするのも極端である。患者も歩行中は前方をよく見るなど、注意すべき点がなかったとは言えない。また、もし衝突したのが高齢者でなければ、衝突をしても骨折にまでは至らなかった可能性は極めて高く、骨折そのものは患者の素因も影響していたことは否定できない。なお、退院後の転倒事故については、今回の事故と因果関係がないと考えてよいだろう。
〈結果〉
 医療機関側は、全面的ではないにしろ一部不注意があったとして、賠償金を患者側に提示して示談した。

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