続 記者の視点 72  PDF

やがて来る「テクノロジー失業」
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平

 映画『ターミネーター』の公開は1984年だった。
 人工知能が発達して、やがて人類に代わる支配者になるのでは、と懸念され始めてから、ずいぶん経つわけだ。
 実際に人工知能の水準は指数関数的に上昇している。2045年ごろには特異点を超えて人知の及ばない存在になるという見方もある。
 それを食い止められるかと言うと、筆者は悲観的だ。世界が足並みをそろえて技術開発をやめるのは難しい。人工知能が問題発見能力まで持つと、制御しようと思っても人間の知恵には穴や限界があるから、太刀打ちできない。
 何とかして「共生」の価値観を人工知能に組み込み、人間や地球にとってやさしい支配者になってほしいと願う。
 もっと早く影響が出そうなのは、仕事・雇用だ。
 繊維を中心にした軽工業の時代、機械・電気を中心にした本格工業の時代には、単純な作業工程と筋肉労働の機械化が進んだが、生産量の拡大もあって、それらを操作する労働力の需要は増えた。
 電子技術や産業用ロボットが導入されると、複雑な工程作業も機械化が進んだ。コンピューターの普及によって商業・サービス業や事務作業でも機械化が進行した。
 熟練労働者の仕事は減り、タイピスト、植字工、電話交換手の職は消えた。鉄道は自動改札になり、駐車場も機械管理が増えた。銀行の基本的な事務はATMを使って客自身がやる。自動販売機があふれ、スーパーには機械だけのセルフレジもある。
 ここで重要なのは、人間に能力差があることだ。知的能力が低めの人たちがやれる農作業や比較的単純な作業は減った。こだわりが強く対人関係が苦手なタイプの発達障害の人たちは、職人的な仕事に向いたが、それも減った。
 いま求人が多いのは、コミュニケーションや複雑な判断を求められる仕事だ。いくら有効求人倍率が高くても、そうした能力の低い人たちは雇ってもらいにくい。
 人工知能とロボットの発達は、能力による雇用格差を加速する。人工知能が得意なのは「大量の知識」「データ分析による正確な判断」だから、複雑な作業、ホワイトカラー、専門職にも影響が及ぶ。
 クルマの自動運転が本格化すれば、運輸業界の雇用が減る。医師、教師、法律家は対人の要素も大きいので人工知能は補助として活用できるが、逆に言うと知識量だけの人は要らなくなる。たとえば薬局の薬剤師の仕事は、簡単に置き換えられるのではないか。サービス業でも無愛想な店員より愛嬌のあるロボットが好まれるかもしれない。
 人間に当面残るのは、①人間性を求められる対人サービス②身体動作の必要な現場作業③意味や価値の判断を伴う仕事④創造性・個性を求められる仕事⑤組織や社会の管理運営――などだろう。
 日本では今、労働力不足が叫ばれているけれど、長い目で見ればテクノロジー失業が社会問題になる。一方で巨大な利益を得る企業や人が出てくるわけで、その利益をどうやって吸収し、人間向けの仕事を配分するか。社会科学・政策科学の力が問われる。

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