医師が選んだ医事紛争事例 62  PDF

副鼻腔にタンポン残存経緯説明し謝罪で解決

(40歳代後半男性)〈事故の概要と経過〉 慢性副鼻腔炎で鼻内内視鏡手術を施行した。約2年半後、受診した際、患者が先日入浴中に左鼻からガーゼが出てきたと報告したことから、術中あるいは術後に止血目的で挿入したタンポンが残存していたことが判明。しかし、精査を行わず、さらに1年後、患者が鼻をかんだ際に2㎝、1㎝、1・5㎝の3枚のタンポンの切れ端が出てきて、診察時にスプレーの麻酔を使用して左鼻からさらに1枚除去した。副鼻腔のCTは撮影していたがタンポンの残存は確認できず、頭部CTでも確認できなかった。なお、患者は右・左とも副鼻腔炎が増悪していた経緯があった。
 患者側は、タンポンが残存していたために副鼻腔炎が増悪したと訴え、医療費自己負担分を賠償してほしいとのことだった。
 医療機関側としては、タンポンは手術時に上顎洞に残存したものと推測され、左副鼻腔炎が増悪したのもタンポン残存が原因と考えられる。右鼻に関しては患者の原疾患であり副鼻腔炎の増悪と因果関係はないと考えられるが、後遺障害も残らない可能性が高い。使用したタンポンはレスチキン2本とガーゼ5本×2で計12本であることはカルテ記載から確認されたが、除去する際にカウントした形跡が認められず、医師もカウントした記憶がなかった。したがって医療過誤があったものと判断された。
ただし、左鼻の副鼻腔炎の増悪とタンポンの増悪の因果関係が完全にあるとは断言できず、仮に残存がなくても10%程度は再発する可能性があると推測されるとのことだった。患者はタンポン残存後も手術の必要はなく薬物療法を継続した。
 紛争発生から解決まで約4年2カ月間要した。
〈問題点〉 タンポンの残存に関しては以下の点から明らかな医療過誤と考えられた。
 ①術後にタンポンをカウントしていない。もしくはそのカルテ記載がない。
 ②患者が残存を訴えたにもかかわらず精査をしなかったため、残存を見逃した。
 ③結果的に5片のタンポンが残存していた。
 なお、タンポンは時間の経過とともに完全に1本ではなく切れ端となって残存していた。
〈結果〉 医療過誤は認められたが、医療機関側が誠意をもって謝罪したところ、患者が賠償請求をしなかったため、立ち消え解決とみなされた。医療機関側の誠意ある謝罪が通じた稀なケースであったと言えよう。

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