医師が選んだ医事紛争事例 61  PDF

鼻中隔矯正術で右眼内転障害 例外的な示談方法で解決

(70歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
鼻中隔矯正術を施行。その後右上顎洞内ポリープ様病変に対して、内視鏡鼻中手術を開始した。ところが、篩骨洞を開放し右上顎洞膜様部を開放する際、誤って眼窩紙様板を開放した。医師は上顎洞を開放したと思い込み、飛び出してくる脂肪組織を腫瘍組織と間違え鉗除・摘出を試みた。途中、患者の痛みが強く、麻酔薬(フェンタネスト・ドルミカム)で対応した。しばらくして上顎洞が開洞しポリープ様組織が残存していたので鉗除した。上顎洞開口部周辺をデブリッターで整えた後、眼球圧迫により眼窩内脂肪組織が突出してきたので、眼窩紙様板を損傷したことに気付いた。眼球運動を見ると右眼球の内転障害があり複視が認められた。その後医師の上司が紙様板欠損部にゼルフィルムを張り付けシリコンプレートで保護した。その後は別のA医療機関を紹介して、そこで断絶した眼窩内側直筋の縫合手術を施行した。視力は事故にあった右眼の方が良いので左目に眼帯をして複視に対応した。なお、症状固定には半年程度かかった。
患者側は、院長の対応等に不信感を抱き、治療費を含む慰謝料を要求してきた。さらに各新聞社が今回の事故について取り上げた経緯があった。
医療機関側としては、明らかな判断ミスとして医療過誤を全面的に認めた。具体的には、眼窩紙様板を損傷すること自体は過誤と断定できないが、損傷後に飛び出してくる脂肪組織を腫瘍組織と間違え鉗除・摘出を試み、その結果内転筋を引っ張り、右眼内転障害をきたしたことは判断ミスで、内転障害の直接の原因となった。
通常ならば、脂肪組織を腫瘍組織と見間違えることはないが、前術の鼻中隔矯正術において、患者の鼻中隔が二重になっており(過去の骨折によると推測される)、予想外に手間取ったことで医師は焦っていた。なお、新聞に報道されたこともあり、患者には医療費について額が確定次第、症状固定を待たずに中間払いした。
紛争発生から解決まで約2年5カ月間要した。
〈問題点〉
明らかな医療過誤と判断できよう。患者の損害については、確定までに時間が必要であった。そのために例外的ではあるが、賠償金の中間払いを複数回にわたって行った。一般的に言うと、賠償金の中間払いは、最終示談の際に患者に渡す金額が中間払い分だけ減額され、患者側の心証として、賠償金額が安価に感じられることがあり、患者が示談に応じない原因になることがある。ただし、今回の場合はやむを得なかったと判断される。
紛争解決の方法には例外が幾つかあり、紋切型には実行できないが、例外的な解決方法を取らざるを得ない場合は、基本を十分了解した上で「今回はあくまで例外」との認識を持つことが肝要である。
〈結果〉
医療機関側が全面的に過誤を認めて賠償金を複数回にわたり支払って示談した。

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