医師が選んだ医事紛争事例 60  PDF

クロマイR膣錠をうっかり投与して…

(40歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
がん検診目的で産婦人科受診。数日後、検査結果を聞くために再受診した。その際、卵巣膿腫と子宮膣部びらんを指摘され、クロマイR膣錠を処方された。ところが卵巣腫瘍手術時のカルテに「過去にパセトシン、クロマイR膣錠、フラジールR膣錠を投与したところ、全身に皮疹出現」と記載されていたことが後に判明した。カルテを記載したのは主治医であったが、記載内容を失念していた。なお、患者も問診票では薬剤アレルギーはないと記載していた。患者は自宅で自己挿入した。翌日に痒みとともに嘔吐、呼吸困難感が生じ、当該医療機関へ救急搬入となり入院した。その後昇圧剤、ステロイドの投与、酸素投与等を施行し、全身状態は回復して退院となったが、翌日から左の耳閉感が出現したため、耳鼻咽喉科を受診したところ、左急性感音性難聴と診断された。
患者側の主張は以下の通り。
①ヘルパー資格取得に取り組んでいたが、今回の事故で実習を受けられなくなったための損害賠償②子どもを患者の弟に預けざるを得なくなったために休業せざるを得なかったことへの賠償―。
医療機関側としては、クロマイR膣錠の投与については、患者がいかに問診票に記載しようとも、投与前には原則確認するのが当然で、完全な過誤であるとして全面的に謝罪したが、難聴とステロイド投与との因果関係については不明とした。
紛争発生から解決まで約1カ月間要した。
〈問題点〉
患者が問診票にアレルギーなしと記載したことは事実であるが、クロマイR膣錠投与は慎重にすべきで、投与前には十分に確認する義務が医療機関側にあったと考えられる。
したがって、患者に自己責任を求めるのは困難と考えられた。ただし、左急性感音性難聴とクロマイR膣錠との因果関係は医学的に認められないため、損害は耳鼻咽喉科を除く産婦人科領域に限るべきである。
また、ヘルパーの講習会キャンセル料は賠償の対象となる。
〈結果〉
医療機関側が誤投薬に関して過誤を認めて賠償金を支払い、示談した。

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