主張/様相を変えてきた医事紛争の傾向  PDF

協会の医療安全対策部会に報告される、ここ数年間の医事紛争報告は、年間30件前後と著明かつ安定した減少傾向が認められている。これは主に診療所に比して病院の紛争が減少したことによる。医療崩壊が叫ばれていたころは、病院対診療所が5対1の頃もあったが、今は病院対診療所は2対1に落ち着いている。その紛争内容を見ると、これもこの数年の新たな傾向だが、例年圧倒的に多かった「手術」に関する紛争よりも、主に高齢者の転倒・転落等の「管理」が増加している。これは患者の高齢化と大いに関係があるだろう。

医療従事者の中には、院内でちょっと目を離したすきに転倒が起こり、大腿骨などの骨折が認められるようなことにでもなれば、管理ミスで全面的に賠償責任があると考える方もおられるだろう。確かに医療裁判の判例等を見ると、医療機関側に有利な判決や和解は、少ないように思われる。
我々は常に現場の声を聴きながら調査を進めているのだが、転倒の多くは「不可抗力」なのではないかと思われることがしばしばある。ちょっと目を離すことが過失であるならば、24時間監視体制を敷かなければならない、もしくは人権蹂躙と言われる拘束をすべし、という理屈になりはしないだろうか? それこそ現場無視の絵に描いた餅の理論であろう。もちろん、医療従事者の不注意から患者を転倒させる、転倒してしまうことはあるだろう。その場合は賠償責任も課されると考える。
しかしながら、紋切型に「転倒=過誤」とならないような働きかけが、医療界からもっと出てきてもいいのではないか。少なくとも協会は裁判所をはじめ、機会あるごとに関係各所へ主張していきたい。患者側からすれば決して好ましいことではないのかもしれないが、医療現場の限界というものも考慮に入れていかないと、新たな医療崩壊ともなりかねない。
協会では5月30日(火)に医療安全担当者交流会を開催する。テーマは「病院は事故にどのように対処するか~現場での体験を踏まえて~」で、阪南中央病院患者情報室医療対話推進者・NPO法人「架け橋」の北田淳子副理事長を講師に迎え、活発な議論をしていきたいと考える。参加希望の方は協会事務局までご連絡いただきたい。

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