主張/遠隔診療(含、いわゆる“ネット初診”)の安易な拡大許されない  PDF

来年の診療報酬改定をめぐる議論が中医協で始まった。その中、論点「外来医療(そのⅠ)」では早速、遠隔診療が議題となった。今回の厚労省資料から推測すると、改定論議では必ず①遠隔診療初診料の新設②遠隔診療にかかわる算定範囲の拡大③遠隔診療ガイドラインの作成・療養担当規則改定―が提案されるであろう。

元々、遠隔診療の拡大は経済界の意向を受けた政府の成長戦略として「骨太方針2015」や「日本再興戦略2015」に盛られ、その圧力で15年8月に厚労省が、従来の遠隔診療規定を緩めた事務連絡を発出したことが契機となっている。その主旨は「遠隔診療のみの医療は医師法第20条違反だが、途中で対面診療を混ぜれば初診は対面でなくとも良い」との新見解である。これをIT業界は“ネット診療解禁”と受け止め慌ただしく事業化参入し、医師への勧誘を開始している。某社では100の医療機関と契約を結んだと喧伝している。
最大の焦点は遠隔診療初診(“ネット初診”)が認められるか否かである。初診は主訴聴取のみならず、歩き方、表情の観察から始まって、触診までの理学的診察、必要と判断して施行し解読する画像検査や検血等々、臨床推論や重症度判定、治療方針決定、説明・相談の凝縮した真剣勝負の現場である。テレビ画面や簡単な血圧等のデータと会話だけで、対面診療に“代替しうる程度”の初診が可能と見なすのは不遜であり、医療としてリスキーである。問題の多い“遠隔診療初診料”算定は現行通り原則不可とすべきである。
また、仮に初診から遠隔診療のみの場合で、途中で何らかの理由で中断すれば、法理上その診療全体が違法となり遡及査定されることになる。それを避けるために遠隔診療の診療間隔を長期間再診とする抜け道も問題となろう。更に、再診の場合も急性期病態に対しては対面診療しか認められていないが、“ネット再診”患者の「風邪を引いた・不眠だ」などの臨時の訴えに対しその場で安易に追加処方してしまう違法診療もまかり通りかねない。
中医協資料では本質の全く異なる“AI診療支援”が併記されて診療報酬付けが示唆された。遠隔診療も自由診療や選定療養での“予約料金”徴収が業者推奨となっており、患者負担金増になり、患者のためと言う建前も崩れてきた。結局、経産省や総務省が画策するIT業界や企業の儲かり戦略の一環という今までの医療IT化戦略と同様の構図が見えてきた。

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