続・記者の視点67  PDF

読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
ヘイト・迫害の横行する時代

こういう社会状況を許していたら大変なことになる。改めて、そう痛感している。
筆者は、ヨミドクターというネットのページに「医療・福祉のツボ」という連載を書いている。昨年12月には「在日外国人は生活保護を受けやすいという『デマ』」という論考を載せた。
ヘイトスピーチをする連中は、在日韓国・朝鮮人の生活保護率の高さを強調したうえで「彼らは保護を受けやすい『特権』を持っている」と主張し、外国人への保護廃止や国外追放を要求している。
筆者は、①在日コリアンの保護率が高いのは、主に高齢者層で貧困が多いからだ②貧困が多いのは、過去の就職差別や1981年末まで国民年金制度から排除されていた影響が大きい③保護の要件や基準は定住外国人も日本人も同じ④保護率が高いから特権があると言うのは、ばかげた単純思考だ――と指摘した。
大きな反響があり、高い評価をいただいたが、一方でツイッターなどネットを中心に非難や罵倒があふれた。会社への電話やメールもあり、在籍する大学にまでクレームをつけてきた人物もいた。
そもそも、文章の内容をちゃんと読まずに非難する人間が多い。2014年の最高裁判決は、外国人への生活保護について、生活保護法ではなく行政通知を根拠に行われると判断したもので、外国人保護を否定していない。そのことは文中で説明したのに、彼らは、最高裁が違法、違憲と判断したという間違った理解を前提に攻撃してくる。
特別永住者として在日コリアンが多数存在する歴史的経緯についても「不法入国者だ」などと、全く事実に反する思い込みに立っている。
そして「記者失格」「朝鮮人に弱味を握られてるんですか」「あなた自身が朝鮮人なんですか」「在日記者」「ゴミ」……。ヘイトの標的にされたら、こういう感じなのか、とその一端を実感した。
在日コリアンの人々は、それどころではない。「クズ」「ゴキブリ」「たたき出せ」「皆殺しにしてやる」といった言葉をネットや街頭で日常的に浴びている。恐怖、不快、怒りは察するに余りある。
それに似た攻撃は、従軍慰安婦や南京大虐殺を論じる人たちや、基地に反対する沖縄の人々にも向けられている。
生活保護の利用者や貧困問題を訴える人々へのバッシングも、様相は似ている。
彼らが用いるのは罵倒、敵視、デマ、扇動、圧力、個人攻撃といった方法である。強固な思い込みによって被害者意識を抱いており、それに基づく正義感の発露として一方的な攻撃を正当化する。
彼らは、ごく少数とは言えない。しかも同様の感性を持つ国会議員、地方議員、政権関係者が少なからず存在する。攻撃に加勢している新聞、テレビ番組、雑誌もある。
米国のトランプ政権、欧州で勢力を伸ばす極右政党などとも通じる問題である。
相模原市で昨年起きた障害者殺傷事件も、その種の思考と行動の延長線上にある事件ととらえたほうがよい。
こういう状況が何に由来して、どう対処すればよいのか。たいへん難しいが、私たちの暮らしと歴史の行方にかかわる中心的な課題に位置づけないといけない。

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