医師が選んだ医事紛争事例 54  PDF

薬剤の保存・管理・確認は慎重に!

(80歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
歩行中に転倒して左大腿部頚部骨折で受診した。2日後に手術を施行して3カ月後には退院予定であった。術後1カ月経過した時点で看護助手が両上下肢に痙攣を確認した。5分後に主治医に連絡を取り、その5分過ぎに主治医が診てバイタルチェック、ルート確保、CT施行の指示をした。頭部CTに異常はなかったが、デキストロ(簡易血糖測定器)で血糖20を確認して、ソリタT3および50%ブドウ糖20mlを、側管から2V投与して痙攣は消失した。患者は加療目的でA医療機関に転院となった。当該医療機関が確認したところ、投与されている定期処方薬に、一包化ガスモチンR【他の消化器官用薬/5―HT4受容体作動剤/消化管運動促進剤】が入っておらず、処方されていないオイグルコンR【インスリン非依存性糖尿病用薬(成人型)(劇)】が入っており、患者はすでに、2・5㎎×4錠服用していたことが判明した。薬局のガスモチンRのケースに、病棟から返品されたオイグルコンRが混在しており、薬剤師は形状が似ていたので、ガスモチンRと思い込み、そのまま調剤したとのことだった。その後、患者は部分癲癇を抑制するために、テグレトールRを投与し続けることとなった。
紛争発生から解決まで約8カ月間要した。
〈問題点〉
オイグルコンRとガスモチンRの誤投薬については、完全な過誤である。今回の事故の原因は、返品されてきた薬品の保存方法が不適切であったことを医療機関も認めているが、この事故を機に基本的には返品せずに破棄する等、マニュアルを作成して再発防止に努めるとのことであった。誤投薬に関する患者側の損害は、A医療機関での入院期間とその医療費であろうが、部分癲癇については、将来消失するか否か明確でないので暫く様子を見ていた。誤投薬は類似の薬剤名が原因で発生することが多いが、薬剤の形状が類似している場合も、当然ながら注意が必要である。
〈結果〉
部分癲癇については、投薬を中止できないので、後遺症と見做すか否か判断がつかなかったが、患者側が示談を急いだことから、賠償金を支払い比較的早期に示談した。

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