新専門医制度 新整備指針で改善みられるも 新制度はそもそも必要なのか?!  PDF

2016年7月25日の社団法人日本専門医機構社員総会で「新専門医制度」の17年4月実施を延期し、全19の基本領域の実施を18年4月に目指すことを決定してから半年余、機構は「専門医制度新整備指針」を了承した(16年12月9日)。

地域医療崩壊懸念の声が続出

「新専門医制度」の実施延期は、15年末を境に「地域医療が崩壊する」「今まで以上に医師・診療科偏在が進む」との危機感が病院団体を中心に広がったことが契機となった。国も、厚生労働省・社会保障審議会・医療部会に「専門医養成の在り方に関する専門委員会」を設置(16年3月25日)し、塩崎厚生労働大臣も談話を発表(6月7日)する等、事態の収拾に動く中、機構は延期せざるを得ない事態に追い込まれた。
医療者の懸念は、機構のプログラム整備基準では必要症例数や疾患等のハードルが高く、地域の中小病院が連携施設にすらなれない。連携施設になれたとしても、専門科によってごく短期間の研修となることが予想され、大学病院・大病院への医師集中が起こり、地域医療が崩壊しかねないとの点に集中した。さらに、研修中の若手医師の身分・労働条件に関する責任の所在が不明であることや、女性医師が専門医資格を取得しにくいこと等の指摘もあった。「機構の権力が強すぎる。ガバナンスもなっていない」と機構の存在自体への疑問を投げかける声も広がった。
延期決定後、機構は、理事会で新執行部を選出。刷新した体制で、制度実施に向けた準備を進めてきた。

日医からも要望出される

新整備指針の検討過程では、日本医師会が「要望書」を提出し(16年11月18日)、①都道府県ごとに、大学病院以外の医療機関も含め、複数の基幹施設を認定②従来専門医を養成していた医療機関が専攻医の受け入れを希望する場合は、連携施設となれる③専攻医のローテートは、原則6カ月未満では所属が変わらないようにする④都市部の都府県に基幹施設がある研修プログラムは、原則として募集定員が過去3年の専攻医の採用実績平均を超えない⑤専攻医の採用は、基幹施設だけでなく連携施設でも行える⑥研修プログラム認定は、各都道府県協議会で、医師会、大学、病院団体等の地域の医療関係者の了承を得る⑦妊娠などによる6カ月までの研修中断であれば、残りの期間で必要な症例を埋め合わせることで研修期間を延長せずに済み、6カ月以上の中断でも復帰後は中断前の研修実績を有効とすること―を要望した。全国自治体病院協議や四病院団体協議会も意見をあげた。
懸念に配慮した新指針へ

新指針は、地域医療崩壊への懸念に対し、一定応える形の内容とされる。日本専門医機構の山下英俊副理事長は12月9日の理事会後会見で、改訂のポイントとして「地域医療への配慮」をあげ、①大学病院以外の病院も基幹施設になれることを明示②常勤の専門研修指導医が在籍せずとも、一定の条件の下、研修施設群に参加可能③機構が研修プログラムを承認する際に、行政・医師会・大学・病院団体等の「各都道府県協議会」との事前協議を前提とする―等と説明した。専攻医の身分保障について、給与は研修を実際に行う施設が支払うとの方針が書かれている。

慎重な検証は継続を

新指針がまとまり、「制度」実施へ一つのハードルがクリアされたといえるが、詳細は今後の「細則」を待たねば不明な点も多い。新指針で地域医療への懸念がすべて払拭されるのかも慎重な検証が必要であろう。
今後、機構は18年4月を目指し、1月中に運用細則、その後基本領域学会が専門研修プログラム整備基準を作成。それを基にした基幹研修施設による専門研修プログラム作成。プログラムの二次審査終了。17年6月からの専攻医募集開始を目指すという。
協会は、「新専門医制度」について、地域医療への影響と同時に、国の「医師管理」政策と結びつく危険を指摘してきた。国は、地域医療構想における2025年の医療需要・必要病床数推計を活用した必要医師数の設定や、医療費の「地域差」解消を掲げた保険医定数制、自由開業制規制等をねらう。この議論は、厚生労働省の医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会や新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会で着々と進んでいる。改良された新指針が出たところで、「新専門医制度」の本当の問題が取り除かれたことにはならない。
一旦延期に追い込まれたのを機に、機構は学会や医療団体をより広く巻き込む形で、「新専門医制度」を仕切り直して実施しようとしている。医療界をあげて「よりよい仕組み」が目指される状況だが、まったくなされていない基本的な問題がある。それは、学会認定の仕組みだった専門医認定を「制度」へ作り変えることは、誰のため、何のためなのか。それが本当に日本の医療保障にとって必要なのか、という点である。
協会は早くから「新専門医制度」が皆保険体制を支えてきた医師の姿の根本転換を迫るものとして警鐘を鳴らしてきた。もう一度立ち止まって考えるべきことがある。

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