第31回保団連医療研究フォーラム・京都アピール「開業医医療」の復権を求めて  PDF

日本は、「国民皆保険」という、全ての国民に平等に医療提供を行う優れた医療制度を持つ国として世界の注目を集めています。

その特徴の一つは、政府の長きにわたる低医療費政策にもかかわらず、医療の水準が高いことです。世界一低い乳児死亡率、一、二を争う平均寿命、主な死因である“がん”“心疾患”“脳卒中”の生存率の向上などはその成果です。
何がこのような成果をもたらしたのか、国際的にも様々な分析が行われていますが、どこの国にも見られない「日本の開業医」こそ、その果たしてきた役割を語られねばならないと考えます。
日本の医師・歯科医師は、自由開業制のもと自己資金で医療機関を開設して開業医となり、国家管理された保険制度の中で被保険者である患者さんを診療し、出来高払いの報酬を受け取る開業保険医となります。私たち「開業保険医」は、支払い側の保険者と、受療権を持つ被保険者である患者さんとの間で、つねに患者さんの立場に立って制度の維持に努めてきました。公設でなく、市場原理に基づく診療所・病院などの運営を迫られる中、地域に根付いて患者さん・国民の生活に密着し、その時々の医療要求に寄り添い、より良い医療と自院の健全経営の両立をめざして努力してきたのです。
また、日本には、医師を必要とする多くの保険制度、保健福祉制度が作られています。各種検診・健診制度の担当医、障害者福祉制度の認定医、介護保険の認定医、地域の産業医、保健センターなどの協力医、学校医、警察医などで行政に協力し、目に見えないところで地域の安全安心を支えてきました。日々の忙しい診療時間をやり繰りしながら、これらの活動に使命感に駆られて献身的に取り組んできたのは、その多くが、住民と暮らしを共にしている地域の開業医です。
開業医は、自院を受診する患者さんだけを診ている訳ではなく、また勤務医時代からの専門領域だけを守ってきたわけでもありません。多様な患者さんの求めに臨機応変に対応し、医療を必要とする状況の背景にある人々の生活実態を知り、支え、またその地域の環境問題などにも住民とともに取り組みながら、人々の生命と健康を守って活動してきました。(保団連全国共同調査・医科分・問27)※
しかし、20世紀終わり頃から続く構造改革政治の結果、地域と住民の暮らしは大きく変容しました。地方の困難は、人々を都市へと押し出し、低賃金を補うための共働きが、不安定雇用を受け入れる形で増加しました。しかし、家族の困難を支える仕組みが社会にない中では、離婚・単親世帯の増加は避けがたく、若年、高齢者も含めて、生きにくさを抱えた人々が地域にはあふれています。社会階層は二極化し、多くの国民が低賃金、不安定雇用、家族と地域の崩壊に苦しめられているのです。その影響は当然医療現場にも及び、医師も医療機関も疲労度を増しています。社会保障であるはずの国民皆保険も空洞化が語られています。
そんな中、「地域医療構想」「地域包括ケアシステム」などと並行して提起されている「新専門医制度」は、医師の配置をいかに管理するかの議論を重ねています。新しい専門医資格である「総合診療専門医」とは、どんな医師像がめざされ、どんなプログラムで養成されるのか、よく見る必要があります。専門医のあり方は、医療提供体制全体の中での位置づけ、果たすべき役割など、これからの日本の医療のあり方を決める大きな課題であるにもかかわらず、その議論の現状は余りにも不十分です。
それに加え、今後の医師養成に関わる国の議論や、先に厚労省から出された「保健医療2035」などが示した今後の医療のあり方には、今まで私たちが実践してきた開業医の医療の姿を否定する方向が読み取れ、大きな問題です。
今こそ私たちは、患者さん・国民とともに保険医運動を闘い、勝ち取ってきた皆保険の価値を、その歴史と共にしっかりと認識しなければなりません。
特に、それぞれの地域で、住民と共に暮らし、住民の側にたって医療を提供してきた開業医の役割とその医療のあり方を、改めて再評価し、復権させていく必要があります。それは、それぞれの地域で、人々によって蓄積された社会的財産だからです。在宅支援診ではない診療所の多くが、今でも往診を含めた時間外患者に対応していることは、困った時の駆け込み先を引き受けてきた開業医の姿をよく示しているのです。(保団連全国共同調査・医科分・問8、10―2)※
私たちは、この国民共有の社会的財産に対する過小評価を跳ね返し、正当に評価、育成するよう求めます。それが、これからも日本が世界に冠たる医療制度を持つ国として存続していく道だからです。
私たちは、「保険で良い医療」と「保険で良い医業経営」がともに実現する医療制度の実現を求めます。それが国民と医療者を共に幸せにする唯一の医療制度だからです。
本日、ここ京都に集い、第31回保団連医療研究フォーラムに参加した私たちは、今後とも医療者としての研鑽を積むと同時に、「開業医」に対する正当な評価と「保険で良い医療と保険で良い医業経営」を実現する医療制度を求め、それを次世代へと継承していくことを誓って、本アピールを採択します。
2016年10月10日
第31回保団連医療研究
フォーラム参加者一同

※保団連全国共同調査は協会サイト(https://healthnet.jp)のトップページ「医療研究フォーラムご報告」よりご覧いただけます。

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