座談会 医師人生を左右する大問題にどう対処する?  PDF

医師不足なのか 診療科偏在なのか 地域偏在なのか

京都で開催された第31回保団連医療研究フォーラム(10月9・10日)を通じて、今後の医療界の課題を浮き彫りにすることをテーマに、11月11日に座談会を開催。垣田さち子理事長、渡邉賢治副理事長、吉中丈志理事に出席いただいた。進行は久保佐世事務局長。

はじめに
久保 本日はお集まりいただきありがとうございます。本題に入る前に、先日開催された保団連医療研究フォーラムのシンポジウムでの、外部からお招きした3人の先生方のプレゼン内容の感想からお話いただきたいと思います。まず、草場鉄周先生(日本プライマリ・ケア連合学会副理事長、専門医制度推進委員会委員長)のプレゼンはいかがだったでしょうか。

草場報告について

渡邉 総合診療専門医を一つの専門領域として確立したいという思いはよくわかりました。いろんな分野を幅広くみることができる医師が、専門医として認められることはあってもいいのではないか。でもそれは、多くの専門医の中の一つに過ぎないと思います。総合診療専門医の資格を取得した医師がさらに進んで各分野の専門医資格を取得したり、逆に、専門分野の専門医資格を取得した医師が、その後総合診療専門医資格を取得したいと思った場合でも取ることができる、そういう柔軟な専門医制度であってほしいと感じました。
おそらく草場先生は、総合診療専門医という新たな専門医があってもいいと考えられ、立ち上げようとされているのだと思います。ところがこの医師としての純粋な気持ちを、医療費抑制の手段として使おうという国の考え方が問題で、そういったことに利用してほしくないと思います。患者をよりよく治療するにはどうしたらいいのか、医師はそう考え、さらに学問的に深めていこうという動機から専門医を取るものだと思います。
それなら、現在の学会が中心になって認定している専門医制度を、よりよい制度にしていけばいいだけのことなのではないか。そんなことを感じました。

羽鳥報告について

久保 羽鳥裕先生(日本医師会常任理事、社保審医療部会「専門医養成のあり方に関する専門委員会」委員、日本専門医機構理事)の、日本医師会が今、取り組もうとしている「かかりつけ医」についてのプレゼンについてはいかがですか。

垣田 2年ほど前に新専門医制度が打ち出され、日本専門医機構の中で議論されてきました。そこから漏れ聞こえてくる内容については非常に違和感を持って私たちは受け止めてきました。議論はどんどん進んでいき、初期研修を終えた医師全員の次のステップの研修を19領域に分けて行うという方針がいきなり出されてきたという印象です。ところが2015年暮れに、全日本病院協会から初めてこの新制度では地域医療に大きな問題が出るとの見解が示されました。以後、いろんな動きが出て、実施が1年間延期されることになりました。
羽鳥先生は日本医師会の対応を含めて、開業医の立場からこの間の動きの総括をしていただけたと思います。日医がかかりつけ医制度を提案してきたことに対する羽鳥先生の見解は、現在の開業医のあり方のままでいいのではないかという立場で発言されていたと、私は受け止めました。立場的には協会と一致されていると思います。

伯野報告について

久保 新専門医制度の一方で、都道府県単位での医療機関の機能の再編が行われています。シンポジウムでは、医師制度から一歩離れて、医療提供体制がどのように変えられようとしているのか、厚労省の伯野春彦先生(厚生労働省医政局地域医療計画課医師確保等地域医療対策室長、在宅医療推進室長)からもプレゼンがありました。

吉中 伯野さんが話された中身は、高齢化、地域医療構想、医療計画、在宅医療の推進、この4点についてです。こういった政策が出される背景として、人口構造の変化のほか、いくつかの流れを指摘し、現在の医療提供体制、主に地域医療構想について、つまり高度急性期、急性期、回復期、慢性期、在宅など、医療機関が持つ各機能をどう変えていくことが必要かといったことを中心に話されました。
その中で違和感を持ったことがいくつかあります。ひとつは、シンポジウムが行われる前の9月段階で、医政局が所管する社会保障審議会医療部会では、すでに保険医の定数配置を含め、医師の偏在の是正をもっと突っ込んで行わないといけないという見解が出されていましたが、担当外ということもあってカットされていました。私見で良いのでぜひ触れていただきたかったテーマでした。
二つ目は、地域医療構想と新専門医制度の関係に関するものです。病床機能の高度急性期、急性期の区分、あるいは在宅医療を担うとされる医師と新専門医制度との関連はわかります。しかし、回復期、慢性期は、新専門医制度との関連ではどういう医師が担うことになるのか、まったく検討されていないようです。
さらに、5疾病・5事業および在宅医療に関わる医療提供体制を定めた厚労省の医療計画があります。ところが、現在の新専門医制度の設計では、5疾病、すなわち、がん、脳卒中、心筋梗塞、精神疾患(認知症含む)、糖尿病のうち、糖尿病が19の基本診療領域の中に入っていません。サブスペシャルにも入っていません。この点でも厚労省が進める医療提供体制の改変に、疑問を感じました。

新専門医制度について

新専門医制度の現状

久保 実施が1年延期となった新専門医制度は、現状どのあたりまで進んでいるのかについて、吉中先生から情報提供いただけますか。

吉中 2015年の秋口くらいから、当時進んでいた新専門医制度の設計では、医師の偏在について問題視する声が上がってくるようになりました。翌16年2月の厚労省の社会保障審議会医療部会でも地域偏在の懸念は示されました。その後、日本医師会、四病院団体協議会から「懸念」が表明されるなど様々な動きが続きました。新専門医制度はこのままでは問題が多い、とくに日本専門医機構のガバナンスが問題だと、2016年6月の社員総会で役員を選び直し新しい専門医機構になりました。そして機構は7月20日の理事会で、1年延期の方針を決定しました。同時に、2017年度については、「基本18領域については各学会の責任において施行する」、19番目の総合診療専門医については、「例えば、プライマリ・ケア連合学会の家庭医療専門医の研修をお勧めするなど、なんらかの暫定措置を講じること」としています。つまり従来型でやることを基本とするということですが、総合診療専門医についてだけ少し踏み込んだことが書いてある。おそらく総合診療専門医は家庭医療専門医をメインとすることを念頭に置いたものだと思われます。
新専門医制度がどのようなものになるか、その流れがわかる図があります(スライド「新しい内科専門医制度の受験資格について」)。
上の図が現制度です。初期臨床研修2年、後期臨床研修1年を経て認定内科医資格を取得することができます。その後3年の後期臨床研修することで、つまり合わせて6年臨床研修することで総合内科専門医の資格がとることができます。図の下が新専門医制度です。初期臨床研修2年の後、3年間の内科専攻研修を行い専門医資格を取ることができます。総合内科専門医になるまで5年間かかることになります。5年間の研修の後、今度はサブスペシャルティ研修をうけると期間が長くなるということで、内科専攻研修の中に循環器や呼吸器などのサブスペシャルティ研修を入れ込んでいいということにし、期間を短縮する方向に向かっています。ですので、初期臨床研修2年、内科専攻研修3年を終えると、内科専門医の資格を取得することができ、さらにもう1年研修を受ければ循環器内科の資格も取ることができることになります。新内科専門医の中身が、循環器、呼吸器などサブスペシャルティの研修をする制度に取って代わられる方向に動いている。
そうなると内科専門医とはなんなのか。内科専門医は制度としてはこれまでからありましたが、ほとんど重視されてきませんでした。診療においてはこの資格は何の意味もないものだからです(笑)。だって、大学には「内科学講座」のようなものはないじゃないですか。それが内科が新専門医制度のもとでは基幹領域になったことで見直されて人数も増えてきているわけですが、やはり形骸化しています。
新専門医制度については大学側も困っています。新制度に対応するにも大学には「内科」というものがありません。あくまで循環器内科、腎臓内科などを取りまとめたものとして「内科」があるということですから。実体として「内科病棟」というのは大学にはありません。こういう矛盾があります。

医師養成のあり方

久保 医師養成のあり方について、さらに突っ込んでうかがいたいと思います。これから医学部を卒業して医師になっていこうとする人たちの立場で考えたとき、医師養成はどうあるべきだと考えますか。

吉中 昔は学生が勝手に勉強するということで成り立っていたところもありましたが、今は教育学にもとづいた教育をやることになっています。
たとえば、京大にはかつて「総合診療科」というものがありました。ここで基本的な診断学などを教えました。現在の医学部教育においてそういうものがいると思います。その上で臓器別の教育が必要です。教え方ももっと交流すべきだと思います。
京大で画期的だったのが、レベルシステム論で教えていたことです。自然の階層性を分子、細胞、組織、社会などに分けて、それに臓器別の系を組み合わせ、そこに講義を当てはめてみんな分担して教育を進めていました。これはあまり注目されることはありませんでしたが、すごくよい方法でした。

確認しておきたい重要ポイント

久保 今回のシンポジウムで明確になったことがいくつかあります。一つは、専門医の資格取得は、既存のドクターを含め「マスト」であるととらえられていたが、現状では取得は「任意」であるということです。二つ目に、日本医師会はかかりつけ医を制度として確立していこうとしているが、総合診療専門医については学問的呼称に過ぎないということです。三つ目に、シンポジウムでは直接出てこなかった点ですが、新専門医制度での医師養成のあり方は、専攻医の医師の立場からすると、どの基本領域の専門医を取得するのかという入口の時点で、将来、総合診療専門医的なかかりつけ医をめざしていくのか、あるいは病院に入り、特に安倍内閣の成長戦略の担い手として期待されるような高度医療を担う「高度専門医」のような道をめざすか、大別してこの二つの道が示されていると考えられます。
一つ目の、専門医資格取得は任意であって義務ではないという点をどう評価しますか。

資格取得は任意というが

垣田 いくら任意といっても、これからどうしようかと考える人たちが、取得を拒否することはまずないんじゃないでしょうか。私たちの世代においては、専門医として管理されることを避けようと、意図的に取らなかった人たちはたくさんいました。しかし、いまの若い人たちは違うでしょう。最も高いハードルにチャレンジすることから始めるだろうと思います。

渡邉 たとえば病院の外科で新規に採用しようという場合、専門医資格を持っている医師と持っていない医師が応募してきたとしたら、病院は持っている医師を採用することになるでしょう。取っておかないと就職できないということになると思います。
私は外科専門医も大腸肛門専門医の資格も持っていません。専門医資格をとる前に父親が倒れ診療所を継ぐため、急いで京都に帰って来ざるを得ない状況だったからです。ところがいったん、開業医として診療を始めると、専門医の資格を取るために診療を休んで試験を受けに行くことはなかなかできません。
肛門科に特化して医療を提供している以上、新しい技術や治療法はしっかりマスターしなければならないので、学会や研究会に行き勉強をしています。わざわざ専門医を取らなくても、努力次第で開業医としてやっていくことはいくらでもできると感じています。
京都に帰ってきて22年になりますが、毎年必ず大腸肛門病学会総会に発表演題を出し続けています。専門医の資格は持っていませんが、私は自分自身を肛門科の専門医だと迷うことなく言えます。だからなぜいま新たに専門医制度を作り、専門医の認定を受けなくてはならないのか、とても疑問なんです。

吉中 専門医の資格を取ることができないという状況は病院でもあります。私の病院には皮膚科の専門医がいません。病院に皮膚科をつくろうとすると、大学から医師を送ってもらわなくてはなりません。ところが、大学側は病院側の要請に対して、「とにかく専門医が1人いて、専門医の研修施設としての条件を満たしていないと送ることができません」というのです。つまり大学が送る医師が、すでに病院にいる専門医とペアを組む形でないとだめだというのです。1人だけでは資格の更新が難しくなるからです。昔のような強制力があるわけではありませんので、行ってくれないのです。ですから一部の専門科は、今後新たに設置されていくことはないと思います。逆に病気やアクシデントで専門医の先生がいなくなる状況になると、再び立ち上がれなくなることが考えられます。あまり話題になりませんが、これが実態です。

かかりつけ医と総合診療専門医

久保 シンポジウムでは、かかりつけ医は「制度」で総合診療専門医は「学問的呼称」だと整理されました。

吉中 大学に「総合診療専門医講座」を作るということならわかります。そのための総合診療専門医で、総合診療専門医が今のかかりつけ医の医療や教育を担うという制度設計は明確でない。ただし、総合診療専門医講座を作るとしたら、京大がその典型ですけど、大学の流れは逆なんです。先ほども紹介しましたが、はじめあったのを潰したわけです。その流れとはマッチングしていない。

垣田 私は逆に、医学部教育として、総合診療専門医研修として出されているプログラムは全員を対象とすべきだと思います。専門医として一部の人がやるようなものではないと考えています。地域包括ケア、産業医、全部やればいいんですよ。今の日本で医師として仕事をしていくためには絶対に必要なことです。「学問的な呼称です」などと言われるとそれは違うだろうと言いたくなりますね(笑)。

渡邉 「かかりつけ医」は、私たち医師の側からいう言葉だろうかという疑問があります。患者さんが私のことを「かかりつけ医です」と呼ぶことがあっても、私たちから患者さんに「私はあなたのかかりつけ医です」と言うのはとてもおかしなことではないでしょうか(笑)。「かかりつけ医」は医師や医療提供者、ましてや国が決めるものではなく、患者さんが決めていくものです。こういった意味からも、かかりつけ医は制度、総合診療専門医は学問的呼称といったことを定義することそのものがナンセンスではないでしょうか。

垣田 今の点は、2016年の保団連夏季セミナーで議論したことですね。そのときのシンポジウムでは全員が渡邉先生が言われたことと同意見でした。
先日の伏見医師会との地区懇談会の際、出席者には小児科の先生が多かったので、2016年度の診療報酬改定で小児かかりつけ診療料が新設されたことが話題となりました。京都ではほとんど届出されていないそうなんです。診療時間の時間的拘束もあるし、対象の患者さんが他の医療機関を受診した場合、その情報を全部把握しないといけない。こんな変な点数は取らないという結論を京都の小児科医会は出しています。あえて小児科かかりつけ医にならなくても今のままでいいということです。いろんな情報を把握してその患者さんを縛ることはできないとおっしゃっていました。

かかりつけ医と高度専門医

久保 今日の大きな国の政策の変化の中で、アベノミクスの第3の矢のかなり大きな部分を占めるのが医療です。その一つとして、高度専門医も今の新専門医制度のあり方の中で、位置付けられているように思います。

吉中 高度専門医というのは、大病院において特化した専門分野の治験を含めた診療と研究を行うことができる医師のことですね? ある意味、この分野のレベルはもっと上げていく必要があると、私は考えています。日本の創薬パワーは落ちていますから。基本、全部治験という位置付けで研究するようにすべきです。専門家としてやっていけるための教育をし直していくことは、必要な課題だと思っています。同時に、病院で医療に携わる立場から言いますと、新専門医制度の中で軽視されていると感じるのは、手術のテクニック、心カテや内視鏡のテクニックといった技術の担保についてです。新専門医制度の柱の一つとして、その点を重視すると安心・安全につながりますよ。群馬大学腹腔鏡手術問題のようなことは起こらなくなる。そういったことを峻別しないのがよくないんじゃないでしょうか。
また、学会のあり方も議論していくべきです。現在の日本循環器学会の代表理事はディオバン事件に関与したとされる人物です。その彼がなぜ循環器学会の代表理事に選ばれるのか。批判的な声はありますが、しかし選挙で選ばれているわけです。こういったことも変えていかないとよくならないんじゃないでしょうか。

医師不足なのか、診療科偏在なのか、地域偏在なのか

久保 次に医師不足問題に話題を進めたいと思います。国は、新たな専門医制度を作る機会を利用しつつ、地域偏在、診療科偏在の現状を割り出していこうとしています。これは医師の人生に大きな影響を及ぼすテーマです。

医師不足なのか

垣田 最近、新潟市民病院の全研修医を対象に1カ月当たりの時間外労働時間を調べたところ、81%が過労死の目安とされる80時間超だったという調査結果が発表されました。ほとんどみんなが過労死する危険性のある状態という実情です。医師の働き過ぎの問題は深刻です。これは古くからある問題ですが、いっこうに解決していません。医師の仕事は定時になりましたから帰りますというものではありません。潤沢に人を配置していただかないとやっていけない仕事ですよね。私たち自身がこれまでやってきたような働き方を次の世代に求めるのは間違いだと思います。女性医師の産休、育休のことも含めて、どの地域にどれだけの医師が必要なのかを計算すべきです。

医師の偏在

久保 一方、医師の偏在の問題は、医師不足の地域にとってはとても深刻な問題です。そういった地域で医療を担っている医師も会員の中にもおられます。この問題はどう対応すべきとお考えでしょう。

渡邉 専門科偏在、地域偏在はあると思います。ではこの偏在はどこからうまれたのか。自由開業制、保険で良い医療、経営ができる地域だったら、みなさん開業していると思います。それが成り立たないところには、行けと言われても行かないですよ。仮に無理やり配置する制度を作ったとしても、そういう現状がある限り、居続けることにはならないと思います。家族の生活、子どもの教育の問題もあります。そこには地方のまちづくりの問題が根本にあると思います。

久保 国が提案しているのも、その地域で生きていってくれるドクターを育てる観点からではなく、たとえば5年間行ってくれたらごほうび的なもの、診療所の開設者になってもいいよ、というものですね。吉中先生は、医師や保険医に対する官僚規制を「徴医制」と表現されていますね。

吉中 へき地で医師が不足しているから強制的に医師を送って医療をやらせる。これは戦前と同じ考え方だと思います。送られる方のインセンティブはお金、資格だけですので、人生をかけて地域の医療をよくしたいという話ではないんですね。医療研のティーチ・インでも議論されましたが、行こうという気持ちがないまま、嫌々やっている仕事ではいい仕事はできないし、問題も解決しない。徴医制ではないやり方でもっと努力していくべきではないかと思います。厚労省の「保険医療2035」ではイギリスの例に触れられていますが、それは日本ではフィットしない方法でしょう。そういう歴史がないんですから。これまで日本で積み上げられてきた中身で、もう少し努力する必要がある。
京都府北部には府立医大の北部医療センター、福知山市民病院があります。そういう公的な病院が開業医の診療支援をする、相互に勉強できる仕組みを作っていくことの方が効果があると思います。ただこれには法的な問題がある。税金を使って開業医を支援するのはだめだとか、公務員の兼業規定に反するとか。でもたとえ週1回チェンジするだけでも、開業医にとっても勤務医にとってもメリットはあると思うんです。

垣田 地区懇談会に出てこられたある医師が、「現状では北部に医師は絶対来てくれません。新専門医制度にかけています」と言い切っておられました。昔の医局制度のもとでは可能だったので、それに戻してほしいと言うのです。必ず2年経ったら戻すからということでみんな行くのであって、そういう制度に戻さないと、絶対北部に医師はやってきませんと。新専門医制度は最後の頼みの綱だという気持ちはわかるんだけれども、しかしそれでいまの学生たちが動くのか、ちょっと疑問です。しかし、同じように考えておられる人は多いですよね。

診療科偏在

吉中 診療科偏在ははなはだしいですね。病院の実情を言いますと、救急、外傷系の医師はほとんどいません。外科医は産婦人科医同様減ってきています。仕事がハードだからです。京大でも配置できる医師が8人しかいない状況です。そうすると各病院で救急医療を担う人がいなくなっています。

垣田 産婦人科も同様です。現在、20歳台の産婦人科医の7割が女性だそうです。しかし、彼女たちはお産は診ないそうです。婦人科の相談医、「内科・婦人科」ということで開業したいと考えているんだそうです。そうすると周産期医療はどうなるのかという問題があります。この先10年以内、深刻な問題になります。

渡邉 産婦人科の先生はたくさんいるけれども、産婦人科の中で偏在があるということですね。

われわれは、どう対処したらよいのか?

久保 いろいろ具体的な提案も織り交ぜながらお話いただきました。これらを踏まえ、医師の人生にとって大きな問題がいくつかある中で、どう対処していけばよいか、ご意見をいただけますか。

渡邉 このままいけば、希少専門医、希少専門科は消えていくと思います。とくに、かかりつけ医以外の医療機関を受診すれば定額を負担する制度ができると、私の肛門科はもちろん、眼科、耳鼻科など、専門の医師たちはいなくなるでしょう。専門の診療所は地域からなくなり、病院の中にのみ置かれるということになります。これはなんとしても避けたいです。

吉中 私は、新専門医制度については時間をかけて考えていってほしいと思います。先ほど一例として糖尿病の扱いをあげましたが、特に基本19領域ごとの是非についても議論してほしい。講座ごとの分け方でいいのかということも議論してもらいたいと思っています。また、日本専門医機構は第三者機関ということになっていますが、現状は曖昧なんですよね。医療機能評価機構、医療安全調査機構とか第三者機関だけど天下り機関のような中途半端なところが多い。独立した専門家機関とはどういうものかも議論してほしいと思っています。
また、今後ロボットが診療に関わってくる可能性がある中、膨大なカリキュラムの中で、もはや不要になる項目もいっぱいある。そういう将来も織り込んだ専門医制度にしないと、すぐに「賞味期限」がきてしまいます。そのためには専門医機構の執行部も若返らせ、現在指導医として活躍しているような次の世代を担うような人たちが関われるような構成にすべきだと思います。
国は「保健医療2035」を打ち出していますが、欧米の真似でないことをもう少し考えるべきだと思うんです。日本の戦後医療はだてではないですよ。日本医師会にそういうことを言いたいです。

垣田 自由開業制と出来高払い制、フリーアクセス制、この三つはすごく大きな役割を果たしてきました。これは医師が信頼されているからこそ成立している制度でもあります。そういう責任を与えられて、患者さん、国民に奉仕する。この最もプリミティブな日本の医療のあり方を、絶対潰してほしくありません。
医学部教育の初めから、いろんな意味で枠を設けないで、自由であることを最大限追求してほしいと思います。
地区懇では、いろんな分野を渡り歩いてきた医師が、今過疎地の医療を支えている姿をしばしば目にします。病理にいって悩みながら何年か過ごし、基礎で何年か過ごし、ようやく自分自身に納得し、ここで開業しようと決意されているのです。この医師がいらっしゃる限り、この地域は幸せだなと思えてきます。そういう医師たちのことをもっと国民に、そして国も、政治家も、厚労官僚にも知ってもらいたいですね。

久保 本日はありがとうございました。

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