医師が選んだ医事紛争事例(50)  PDF

全ての骨折がすぐに確定診断できる訳ではないのです

(30歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
 2年前のバイク事故による後遺症診断書作成を目的に初診した。問診・理学的診察やレントゲン検査により左足関節捻挫と診断し、診断書を発行した。その後、別のA医療機関を受診してレントゲン撮影し、更にB医療機関でMRI検査をして左距骨骨壊死と診断されるとともに、そこの医師から当該医療機関で撮影したレントゲンにも左距骨骨壊死が写っていると言われた。
 患者側は、左距骨骨壊死を見落とされたと誤診を訴え、精神的苦痛を受けたとして賠償金を請求してきた。
 医療機関側としては、レントゲンに明らかな左距骨骨壊死が写っていると判断できない。更に患者の傷病名は左距骨骨壊死ではなく、離断性骨軟骨炎の可能性があるとのことだった。また、仮に初診時に左距骨骨壊死もしくは離断性骨軟骨炎の確定診断がされていたとしても、保存的療法しかなく患者の予後に影響はないとして医療過誤を否定した。
 紛争発生から解決まで約1年間要した。
〈問題点〉
 レントゲン上では、左足関節像は整合的で骨密度は右側に比し、やや低下気味に見えるが通常レベルであるとともに、骨染構造は保たれており、左距骨骨壊死や離断性骨軟骨炎などの疾病を診断できるものではなかった。患者は後遺症診断書のみが目的で受診しており、医師は診断できるものとできないものがあることも説明して、その限界を示した上、診断書を発行した。更に、仮に左距骨骨壊死であったとしても、患者の予後に影響はない。したがって、患者の理解力に問題があると考えられ、医療過誤は認められなかった。誤診が即ち過誤と判断されない場合もあり得ることを、患者側に納得してもらうのは極めて難しいが、医療機関側としては、根気よく誠意をもって事後の説明にも配慮が必要であろう。
〈結果〉
 医療機関側が根気よく医療過誤がないことを患者側に説明した結果、クレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決とした。

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