主張/日本学術会議に平和と福祉の増進に貢献する決意表明を期待する  PDF

 日本学術会議における軍事研究容認の動きが注目されている。大西会長が「個別的自衛権の範囲なら軍事目的の研究が許容されるべき」として、5月に「安全保障と学術に関する検討委員会」を設置し、議論を始めたからだ。安保関連法制をみれば集団的自衛権対応にまで広がることは容易に予想できる。すでに防衛省は安全保障技術研究推進制度(2015年)を発足させている。大学などの研究者に安全保障に役立つ技術開発を公募し、防衛省が直接研究費を出す制度ができているのだ。
 初年度の内容を見てみると、大西氏が学長を務める豊橋技術科学大学(国立大学法人)の「有毒ガス吸着シートの開発」が採択されている。化学兵器戦を想定し、自衛のための防護を念頭に置いているのだろうか。現在でもシリアなど世界の紛争地で毒ガス兵器が使用されていると報道されている。日本や中国には、終戦後日本軍が遺棄した毒ガス兵器に暴露して被害にあった民間人が少なくない。大西氏の大学で開発されたガス吸着シートが民間人の被害の防止に役立つとは考えにくい。軍事研究は秘匿される可能性が高いからだ。
 日本学術会議は、平和と国民の福祉増進に貢献する決意を表明して発足した(日本学術会議の決意 1949年)。
 日本学術会議は50年に「戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対に従わないというわれわれの固い決意を表明する」と声明した。十五年戦争において、「日本の科学者がとりきたった態度について強く反省」し、「文化国家の建設者として、はたまた世界平和の使として、再び戦争の惨禍が到来」しないよう「科学者としての節操を守る」と決意したものである。時あたかも朝鮮戦争前夜にあたり、勇気ある表明である。その後、日本物理学会が米軍から補助金を受けたことを契機に、67年にも同様のことを再声明している。日本国憲法の平和主義に通底するものであり、日本の科学者の良心の宣言といってよいのではないか。世界的にも類を見ない誇るべき学術界の宣言である。
 「自衛のための研究」はこれと相容れないと考える。安保関連法制に対しては、憲法違反の暴挙であり日本を戦争ができる国にするものだという批判が広範な市民から上がったことは周知のことである。現在も、同法の廃案を求める2000万人署名などの運動が続いている。日本学術会議には、憲法学専門の会員もいる。大西会長は安倍政権に迎合するのではなく、こうした声にしっかりと耳を傾ける必要がある。
 戦争と医の倫理の検証を進める会も参加する軍学共同反対連絡会が運動を広げている。看護学分科会からは、十五年戦争時の経緯を振り返って慎重議論を求める要望書が提出されている。世界平和を「目的の極點」として、世界医師会は発足している。日本医師会と日本医学会は、積極的に発言すべき時ではないか。日本学術会議の戦争目的の研究を拒否する声明は、わが国の医学・医療の過去・現在・未来において重要な意義をもっていると考える。

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