シリーズ環境問題を考える(131)  PDF

 食や農業のグローバル化が進行し、遺伝子組み換え作物(GM作物)による加工食品が、私たちの日常の食卓にあふれています。わが国では、GM作物という名前は知られていても、その危険性や実態、関係企業などについてはあまりに無理解です。世界の種子市場の半分以上が、わずか3社の多国籍企業(モンサント、デュポン、シンジェンタ)に握られています。モンサントは世界のGM作物の9割を支配していますが、わが国では、モンサントという会社には大きな関心が寄せられていません。この会社は、ベトナム戦争で、悪名高い枯葉作戦のオレンジ・エージェントという化学薬品で大もうけをし、その後、トウモロコシやナタネのGM種子と除草剤をセットに販売し、一躍グローバル企業に成長しました。
 世界の農薬・種子業界では再編の動きが活発になっていて米化学大手のダウ・ケミカルとデュポンは昨年12月に経営統合で合意、新会社が誕生する見通しです。今年2月には中国国有・中国化工集団がシンジェンタを430億ドルで買収することに合意しています。ドイツの製薬・農薬大手のバイエルは今年5月10日付で、遺伝子組み換え種子1位の米モンサントの買収を約8兆円で検討していることを発表しました。しかし、5月24日にモンサントはバイエルの買収提案を、取締役会の全会一致で拒否することに決めました。業界の「ビッグ6」と呼ばれる大手のうち、残ったモンサントとバイエル、化学大手の独BASFの今後の動きが焦点となっています。
 1996年に始まった遺伝子組み換え農業は、2015年にGM作物の作付面積が、工作開始以来、初めて減少しました。GM作物は大豆とトウモロコシが8割を占め、綿とナタネを加えた4品種で全体の99%を占めています。現在行われている遺伝子組み換え農業では、農薬耐性と害虫抵抗性遺伝子組み換えの二つが主流です。農薬耐性遺伝子組み換えとは農作物を特定の除草剤(グリホサート・商品名ラウンドアップ=モンサント)をかけても枯れないように遺伝子組み換えしたものです。しかし、除草剤耐性の雑草の出現で、除草剤の使用量は減りません。遺伝子組み換えの耕作地では、除草剤のために土壌崩壊、環境被害、健康被害が広がっており、WHOの国際がん研究組織(LARC)は、ラウンドアップを「おそらく発がん性がある物質」(2A)というグループに分類しています。
 害虫性抵抗性遺伝子組み換え作物では、土壌細菌のパチルス・チューリンゲンシスのBt遺伝子を使って、作物の中で特定の昆虫が食べると腸を破壊するBt菌を生成して昆虫を殺す仕組みです。しかし、ここでも除草剤耐性菌同様、Bt菌が効かない害虫(スーパー・ワーム)が出現しています。Btコットンを導入したインドでは、収穫が不安定で、多くの農民が自殺に追い込まれています。ブラジルでは2013年には1000億円の被害が出ています。米国を中心に作付けされている遺伝子組み換えトウモロコシも、商品価格の下落などで厳しい状況が続いているため、米モンサントの2015年四半期は25%減益との情報もあり、世界のGM作物王者モンサントにかげりが見え始めています。アグリビジネス業界の再編成、自然界で起こらない遺伝子操作を強制するGM作物の今後の行方と影響が注目されます。
 (環境対策委員 山本昭郎)

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