憲法を考えるために(53)  PDF

98 ・ 99 条
 98条1「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる」(2~4略)。99条1「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる(略)」(2略)。3「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない(略)」。4「緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されない(略)」。
 これは現行憲法98・99条ではない。自民党が9条に先駆けての改憲を目指しているといわれる改憲案98・99条の緊急事態条項である。
 そしてこれは大規模災害などに際し、それに対処するために首相にさまざまな権限を与えるものなどでは断じてない。これは現憲法が最も大切なものとして守るべきと規定している人権をないがしろにし、民主主義の根幹を揺るがすものである。この条項が定められると、現憲法は実質的に変えられてしまい、この国は全く違うものになってしまうであろう。では緊急事態条項の下では何が変わってしまう可能性があるのか。
 内閣の判断のみで緊急事態が宣言でき、内閣の判断のみで、人権が制限できるようになり、立法機能を国会から内閣に移し、その時の国会構成を変えず、選挙を実施しないことも可能になる。そのよう状況になれば、国会承認も事実上、歯止めにならない。内閣の一存で、法律そのものの政令が作くられ、国会はそれに関われない。人権侵害はその文言にかかわらず起こりえるし、それが大きな意図であるともいえる。選挙で審判を下す道も閉ざされ、これに対する司法の関与も全く定められていない。憲法9条があっても、軍事行動への歯止めは限りなく形骸化していくであろう。百歩譲って災害などの緊急事態への対処の必要性があるとしても、それは目的を限定し、人権侵害の恐れがあったり、三権分立などを含む民主主義の根幹が脅かされる可能性がないように、厳しい制限のもとに定められるべきものである。
(政策部会・飯田哲夫)

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