医師が選んだ医事紛争事例(47)  PDF

医療過誤はないけれど…
(70歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
 胸部大動脈瘤手術目的で内科入院となった。患者・家族には脳障害をはじめ、半身麻痺、意識障害により一生車椅子生活になるリスク等を、複数回に亘り合計2時間以上説明して、同意を得た後に手術施行となった。術後直後からCHDF(持続的血液濾過透析)を開始した。その後、人工呼吸器から離脱となったが、両下肢麻痺等の脊髄障害が確認され、ステロイド、ナロキサンの投与を開始したが、患者は脊髄梗塞で下肢麻痺となった。
 患者側は、脊髄梗塞について病名および症状について事前の説明がなかったとして、説明義務違反を主張した。また、医療費等支払いはしていたが、返還するよう賠償請求をしてきた。
 医療機関側としては、診断・手術の適応・手技・説明について、過誤と断定される要素はないと医療過誤を否定した。
 紛争発生から解決まで約5カ月間要した。
〈問題点〉
 カルテは丁寧に記載されており、診断・手術の適応・手技・説明について問題がないことが証明されるケースであった。患者側が主張する説明義務違反については、確かに脊髄梗塞について具体的には言及していないが、患者には一般的な塞栓症について説明しており、患者の選択権を奪ったとは考えられない。ただし、当該医師に問題はないが、後に患者側に説明をした神経内科医師の姿勢は専門的な知識を報告するに止まっており、患者側の神経を逆撫でした可能性が極めて高かった。また、医事紛争が発生しているにもかかわらず、医療機関での院内事故調査委員会が開催されず、医療安全体制が機能していないこととなり、当該医師が孤立してしまう事態が危惧された。
〈結果〉
 医療機関側が、根気よく患者側に説明をしたところ、患者側のクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決と見做した。

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