続・記者の視点 62  PDF

もうけすぎの薬価は下げろ
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平

生物学的製剤を中心に高額な新薬が次々に登場し、医療保険財政が破綻するのでは、と騒がれている。それに絡んで、高齢者には高価な薬の使用を制限せよという意見まで出ている。生きる価値のある人間とそうでない人間を線引きする発想は、危ない。
議論の発端は、小野薬品工業が2014年9月に悪性黒色腫の薬として発売した抗体医薬オプジーボ。薬価は20㎎で15万200円、100㎎で72万9849円。体重60㌔の患者で1日あたり4万1907円になるが、ピーク時の予想患者数は470人、予想売上高は年間31億円だった。
というか、悪性黒色腫なら市場規模が小さいから、予想売上高から逆算して高い薬価になった。メーカーの費用と利益を確保するためで、利益率は革新性の評価により通常の6割増の27%とされた。
その後、オプジーボは切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんへの効果が示され、15年12月に効能が追加された。そうした肺がんで1次治療を受ける患者は年間5万人、1日の薬価は9万5046円。仮に全員が1年間使うと1兆7500円という巨額になる(小野薬品側の予想は16年度で2次使用の新規患者1万5000人、1220億円)。
適応拡大で市場が一気に巨大化したのに、同じ値段で売れたら、メーカーはぼろもうけになる。そういうケースへの対処を想定しなかった厚労省の失策である。
薬価には、一定以上の市場拡大で最大25%引き下げる「市場拡大再算定」のしくみがある。16年度の改定では、市場規模と拡大率の特に大きい薬は最大50%引き下げる「特例拡大再算定」も導入され、4種類の薬で実施された。
しかし再算定は2年ごとの薬価改定時だけで、オプジーボが対象になるのは18年春。それ以外の時期に再算定しないのは、薬価のルールが明確でないと製薬会社の開発意欲に影響するから、と厚労省保険局医療課は説明してきたが、厳しい保険財政を犠牲にして優先するのは疑問だ。
ほかにも抗がん剤やC型肝炎治療薬で1日に何万円もかかる薬が相次いでいる。ぜんそく、関節リウマチ、脂質異常などの慢性疾患でも1日薬価が数千円の薬が出ている。
薬価は、中医協の下に設けられた薬価算定組織が、医療課の案をもとに検討する。委員は臨床の医師、歯科医師、薬剤師と医療経済の研究者だというが、委員長を除いて氏名は公表されず、検討の経過もまったく非公開だ。
類似薬がない新薬は原価計算方式。製造原価、開発費、販売費、一般管理費などに、業界の平均営業利益率(現在14・6%)の0・5倍~2倍を新薬の評価に応じて加える。最後に外国平均価格と比べて調整する。製薬会社の言い値で費用と利益を保障するような方法である。
類似薬がある場合は、それと比較しつつ、画期性、有用性、市場性などで加算する。
有効かつ高額な薬を保険でどう扱うかは長期的に見ると悩ましい問題だが、さしあたりは市場拡大に応じて適宜、薬価を下げればよい。過剰な利益や新薬の報奨金まで保険から出すのは、やりすぎだ。

 

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