気候変動と健康 その2
気象庁の発表では、2025年の夏(6〜8月)の平均気温は、23年、24年の記録を大幅に上回り、観測史上最も高くなりました。群馬県伊勢崎市では歴代最高気温41・8℃を、京都市では35℃以上の猛暑日を9月までに61日を観測しました。年間平均気温は観測史上3番目の高さでした。また、総務省は同年(5〜9月)の熱中症による全国の救急搬送人員の累計は10万510人で、調査開始2008年以来最多の搬送人員と発表しています。
気候変動による猛暑、異常気象、大気汚染、媒介生物の生態変化、水および食料供給の影響、自然環境の悪化、アレルゲン増加、水質の影響などが健康に影響を与えるとされています。WHOが2014年に発行したレポートによると、2030〜2050年には全世界で年間約25万人の超過死亡が発生すると推定され、その内訳は熱中症関連死3・8万人、マラリア6万人、下痢症4・8万人、低栄養4・8万人と予測しています。
猛暑、異常気象による健康リスクとしては、熱中症リスクの増加があります。高齢者は熱中症死亡例の80%を超えており、体内水分量が相対的に少なく、暑さに対する調節機能や感覚の低下があるため脱水に陥りやすく、循環器疾患や腎疾患などの持病を持っていることが死亡の多い原因となっています。一方、子どもは体温の調節が未熟であり、体重当たりの代謝が良いため熱生産量が多いのに、水分をきちんと補給しようとすることができなくて脱水に陥りやすいとされています。熱中症以外に「熱ストレス」もあり、35℃以上の気温と高い湿度によってもたらされる生理的・心理的な障害のため、体温上昇、心拍数増加、発汗増加、食欲不振、不安感、気分の落ち込み、自律神経失調、うつ症などを引き起こします。
異常気象による干ばつや豪雨災害、森林火災などで感染症が増加、農産物への被害で食料不足に陥り、飢餓や栄養不足による健康被害が生じます。近年、森林火災が増加しており煙害は呼吸器疾患の悪化を助長します。まれとはいえ、森林火災による煙の中の真菌がもたらす「渓谷熱(コクシジオイデス症)」の発生がカリフォルニア州で報告されています。また、気温上昇により光化学スモッグ、SPM・PM2・5、NO2、花粉飛散などが増加し、気管支喘息、肺気腫などの呼吸器疾患やアレルギー疾患、循環器疾患を発生、増悪させます。
気温・海水温の上昇は蚊やダニなどの節足動物の生息域拡大によるマラリア、ウイルス、細菌・リケッチアなどによる感染症、食中毒を発生・増加させ、さらに自然界と人間境界の消失による野生動物から人への「人畜共通感染症」の新たな発生もあります。台風や豪雨などを経験すると、多くの人が強いストレスを感じ、PTSD(心的外傷後ストレス症候群)に悩まされると言われ、気候変動がもたらす新たなメンタルヘルスの課題となっています。
これらに対抗するために「適応策(すでに起こりつつある気候変動の影響から身を守る具体的な行動)」と「緩和策(気候変動の根本原因である温室効果ガス(CO2)の排出を減らすための取り組み)」が挙げられます。この二つを組み合わせた気候変動による健康リスクを減らす行動に取り組むことが大切です。地球温暖化防止のためには2015年の「パリ協定」、昨年ブラジルで開催されたCOP30の決定事項の実践が重要です。医師として、子どもや若者たちへ持続可能な未来の地球を手渡すことが求められています。(環境対策委員山本昭郎)参考文献
高村ゆかり「気候再生のために」『世界』2025年8月号
橋爪真弘「気候危機は健康危機」『SDGs MAGAZINE』2025年9月29日
日本医療政策機構(HGPI)政策提言「保健医療分野における気候変動国家戦略」







