福祉国家構想研究会 対抗軸を探る 番外編 医療提供体制と医療保険制度の改革を俯瞰的に捉える(上)― 医療提供体制政策について ―  PDF

2026年度の診療報酬改定率「+3.09%」を確認1)した「大臣折衝事項」(2025年12月24日)、2025年末の「令和7年度補正予算」に1兆3,832億円の「医療・介護支援パッケージ」と、高市政権が経営難に喘ぐ病院等医療機関の困難を受け止め、財政支援を強めているように映る。
こうした動きに対し、日本医師会の松本吉郎会長も「10月に高市政権が発足し、医療と介護の経営状況を回復させることが国民の生命と健康を守ることにつながるという政府方針が示されたことは非常に大きい」「高市首相、片山財務大臣、上野厚労大臣をはじめ、関係者の方々に深く感謝しています」とインタビューで評価している2)。
もちろん今日まで、医療界は医療経営危機を社会問題化させ、公的な支援を要求してきた。その運動がもたらした成果であることは間違いではない。
だがそれをもって高市政権が医療・社会保障を充実する立場だと考えるのは早計である。

なぜ支配層は軍事大国化を志向するか
―医療・社会保障政策の分析に欠かせない視点

高市政権は新自由主義に立脚した医療・社会保障の給付抑制策を推進する政権である。
「新自由主義とは、多国籍資本の発展と冷戦の終焉による『自由な』市場のグローバルな拡大と競争の激化の下で、それまで現代国家が資本に課してきた規制と負担を撤廃し資本の活動の無制約な自由を回復することによって自国資本の競争力を強化し資本蓄積の拡大を目指す資本主義の新たな段階を示す概念である」3)。
民主党政権期に漸進化した新自由主義改革を再稼働させたのは第2次安倍政権であり、高市政権はその継承者と考えられる。
その特質は政権の「軍事大国化」志向にも濃厚に表れている。「軍事大国」とは「自国の国益を実現すめるために必要な政治的、軍事的力を持ち、かつ使用できる国」と定義される4)。
新自由主義政治は「自国の多国籍企業」の「利益を擁護し、その発展で国家の繁栄を確保」する「グローバル競争大国」を志向する。だからこそGDP比3%も視野に防衛費(軍事費)拡大に突き進んでいる。なぜなら「アメリカ中心の自由な市場秩序」の維持のため、日本自らが「強大な軍事力を保持・使用」できるようにすることが必要不可欠と考えているからである。
つまり、新自由主義政治とは「資本の活動の無制約な自由」の回復を目指すものであり、そのために足枷となる医療・社会保障にかかる国家や大企業のあらゆる負担の軽減や規制の解除を目指す。それ故に給付抑制策(国民への医療・福祉サービス後退)も推進される。同時に「資本の活動の無制約な自由」を守るための防衛費拡大も推進される。その意味で、医療・社会保障改革と防衛費拡大はいわば一体の問題として捉える必要がある。
社会保障制度である公的医療保険による「医療と医業」の両立を目指す保険医運動の原理・原則に従い、高市政権の医療・社会保障政策を分析し、その転換を追求するならば、医療制度の課題と軍事や平和をめぐる問題を切り離して考えることは非科学的態度である。
いかなる大衆運動も、時の支配層の特質を俯瞰的に捉える能力がなければ必ず敗北する。

11万床の病床削減のためになりふり構わぬ財政出動

高市政権は医療・社会保障抑制の姿勢を他ならぬ「医療・介護支援パッケージ」でも貫いている。
病院に対する1床あたり19.5万円(救急受入の加算別途あり)、有床診療所8.5万円、医科無床・歯科診療所32.0万円という賃上げ・物価上昇に対する支援と横並びで「病床数適正化緊急支援基金」が実施される。具体的には、病床を削減する場合に、病院(一般・療養・精神)・有床診に410万4,000円/床(休床の場合205万2,000円/床)を支払うものである。これは「医療需要の変化を踏まえた病床数の適正化を進める医療機関への支援」であり、前年度補正予算における「病床数適正化支援事業」の強化版である。
前年度には全国の一般・精神の病院から「53,576床」の活用意向があり、予算の許す範囲の410万4,000円×「11,278床」分(内京都府は291床)が配分された。
今回の「緊急支援基金」は総額3,490億円、1床410万4,000円(休床の場合は205万2,000円)。稼働病床6万床、休床3.8万床の削減を見込んでいる5)。
2回の病床数適正化支援金を使った削減策が「首尾よく」進んだとすれば、国は約「11万床」の削減を達成することになる。
もちろんこれは自民・公明・維新の「合意書」(2025年6月11日)から、自民・維新の政権合意に引き継がれた「社会保険料引き下げ」(を名目に推進される医療費抑制策)のための目標値に他ならない。

改正医療法―
新たな地域医療構想で病床ばかりか病院も淘汰

国会成立(2025年12月5日)した「改正医療法」による2040年に向けた「新たな地域医療構想」は11万床の病床削減の達成を見越して、2027年にも本格稼働する。
新たな地域医療構想は、病院・有床診療所に対し、従来の「病床機能報告」「外来機能報告」に加え、新たに「医療機関機能報告」を求める。
医療機関機能は「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4類型が示されており、病院はそのいずれかの選択を迫られる。
都道府県向けのガイドラインを検討する「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」では、厚生労働省(医政局)が「区域の人口規模」毎の「必要病院数」を示している。
区域を「大都市型」(100万人以上)、「地方都市型」(50万人程度)、「人口の少ない区域」(~30万人)に分け、例えば人口30万人までの区域なら「急性期拠点機能」6)は「1カ所」で足りるとの考えを示している。京都府に当てはめるなら国は、福知山市以北には急性期拠点機能を持つ病院が一つあれば良いことになってしまう。

「外来医師過多区域」の開業規制

病床数のみならず病院数抑制が目指される一方、診療所に対しても「開業規制」が強められる。新たな「外来医師過多区域」の(都道府県による)指定と同区域での開業ハードルの設定がそれである。
同区域について厚労省は2025年12月12日の検討会で「外来医師偏在指標で、全国平均値+標準偏差の1.5倍以上」かつ「可住地面積あたり診療所数が上位10%」となる2次医療圏を外来医師過多区域の候補とすることを提案していた。そして2026年1月19日の検討会では「京都・乙訓医療圏」が候補に挙げられたのである。
同区域に指定されると、新規開業希望者(医院承継も含む可能性は非常に高い)の自由開業は事実上否定され、「6カ月前に提供予定の医療機能等の提出」、「協議の場」へ出席しての説明が求められ、「地域で不足する医療の提供」(地域外来医療)が要請され、最終的に応じないまま開業した場合には「診療報酬上の措置」や「補助金の不交付」の実施も見込まれている(図)。
区域の指定は都道府県が行う。法施行が2026年4月のため、早ければこの4月にも指定される可能性がある。「大臣折衝事項」には「外来医師過多区域」のみならず「医師多数区域での診療報酬でのさらなるディスインセンティブ措置」の在り方を「令和10年度診療報酬改定において結論を得る」との記述もあることから、医師偏在指標を用いた開業規制は今後エスカレートする危険性が高い。

大きく捉えつつ、つぶさに検証する姿勢を

以上述べてきた内容の他にも、改正医療法は「オンライン診療受診施設」の新設や「電子カルテ約100%導入」義務付け等、今日の医療提供体制に強い影響を与えうる施策を準備している。それらの根幹に新自由主義政治があり、それ故の医療費抑制政策があり、またそれを糊塗する「社会保険料引き下げ」のスローガンがある。地域の医療者には政権の性質を大きく捉えた上で、個々の「改正」への対抗をつぶさに検討する姿勢が求められよう。
次回(下)では医療提供体制と一体的に推進される「医療保険制度改革」の動向を分析する。 (続く)(中村
暁・福祉国家構想研究会事務局長)
1) 介護報酬、障害福祉サービス等報酬も期中改定、それぞれ「+2.03%」「+1.84%」。
2) m3.com「30年ぶりの大幅プラス改定、医療界一丸の成果―松本吉郎・日本医師会会長に聞く◆Vol. 1」(2026年1月16日)https://www.m3.com/news/iryoishin/1316099
3)『 新自由主義 日本の軌跡』渡辺治著作集第13巻(旬報社)324ページ
4)『 〈大国〉への執念 安倍政権と日本の危機』渡辺治・岡田知弘・後藤道夫・二宮厚美著(大月書店)12ページ
5) メディファクス(2025. 11. 28)報道
6)「 急性期拠点機能」は「地域での持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行う」ものとされる。国は12月12日の同検討会で「急性期拠点機能は遅くとも2028年までに決定」との考えを示した。

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