かんぽう趣談 八 田中 寛之(舞鶴)ブレずにいきたい  PDF

漢方薬の処方名は独特であり、医師がとっつきにくい理由の一つだ。とはいえ、一見分かりにくい処方名にはいくつかルールがある。
 ①処方の中心になる生薬の名前を冠している。例:葛根湯
 ②処方の作用を示している。例:補中益気湯(体の中=消化機能を補い、気を増やす)
 ただし例外もしばしばある。
 例えば神秘湯。喘息や咳に使用する処方であるが、「霊験あらたかな薬効がある」ことからこの名前となっている。なんか適当に命名した感があるが。
 女神散という処方もある。「女神のように効くから」……ではなく、「女性の血の道(今でいう月経・女性ホルモン関係の病気)に神効がある」からこの処方名になったそうである。
 また加味逍遙散という処方がある。更年期のホットフラッシュやめまい、肩こりなどに頻用される薬である。「逍遥」というのは「あちこちをぶらぶら歩く」という意味なのだが、なぜこんな処方名がつけられたのだろう。
 これについては有名な小話がある。

 三人の医者がいた。
 「加味逍遙散の『逍遥』は何を意味しているのか知っているか?」と一人が言った。
 「患者の症状が不定愁訴のようにあれこれ移り変わるから『逍遥』だろう」と二人目が答えた。
 「『逍遥』するのは患者本人だ。ドクターショッピングのようにいろいろな医者にかかりたがるのだろう」と三人目が答えた。
 「違うね。実は『逍遥』するのは医者だ」最初の一人がニヤリと笑った。「あれこれ言う患者に振り回されて、治療方針がコロコロ変わってしまうのさ」

 実際の命名の由来は「患者の症状が移り変わるから」なのだが、「医者の治療方針がコロコロ変わる」という説には思わずギクッとさせられる。
 皆さんもついつい「逍遥」してしまうことはありませんか?

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