漢方薬の処方名は独特であり、医師がとっつきにくい理由の一つだ。とはいえ、一見分かりにくい処方名にはいくつかルールがある。
①処方の中心になる生薬の名前を冠している。例:葛根湯
②処方の作用を示している。例:補中益気湯(体の中=消化機能を補い、気を増やす)
ただし例外もしばしばある。
例えば神秘湯。喘息や咳に使用する処方であるが、「霊験あらたかな薬効がある」ことからこの名前となっている。なんか適当に命名した感があるが。
女神散という処方もある。「女神のように効くから」……ではなく、「女性の血の道(今でいう月経・女性ホルモン関係の病気)に神効がある」からこの処方名になったそうである。
また加味逍遙散という処方がある。更年期のホットフラッシュやめまい、肩こりなどに頻用される薬である。「逍遥」というのは「あちこちをぶらぶら歩く」という意味なのだが、なぜこんな処方名がつけられたのだろう。
これについては有名な小話がある。
三人の医者がいた。
「加味逍遙散の『逍遥』は何を意味しているのか知っているか?」と一人が言った。
「患者の症状が不定愁訴のようにあれこれ移り変わるから『逍遥』だろう」と二人目が答えた。
「『逍遥』するのは患者本人だ。ドクターショッピングのようにいろいろな医者にかかりたがるのだろう」と三人目が答えた。
「違うね。実は『逍遥』するのは医者だ」最初の一人がニヤリと笑った。「あれこれ言う患者に振り回されて、治療方針がコロコロ変わってしまうのさ」
実際の命名の由来は「患者の症状が移り変わるから」なのだが、「医者の治療方針がコロコロ変わる」という説には思わずギクッとさせられる。
皆さんもついつい「逍遥」してしまうことはありませんか?







